研究実績の概要 |
PLEKHG2は細胞形態制御を司るRac, Cdc42のグアニンヌクレオチド交換因子の一つである。最近、PLEKHG2の遺伝子変異(c.610C>T/p.Arg204Trp)が、小頭症を伴う知的障害(ID)を引き起こすことが報告された。すなわち、PLEKHG2は神経細胞発達に必須の役割を果たすことが確実視される。しかし、PLEKHG2異常が脳発達の何れの過程(神経細胞の増殖・移動・分化)を障害するのかは全く不明であり、小頭症・IDの発症機構は未解明である。そこで、ヒトPLEKHG2変異に相当するマウスPlekhg2 p.Arg200Trp(Plekhg2-RW)による神経細胞発達障害について、形態学および生化学的性状解析と病態解析を行った。性状解析の結果、Plekhg2-RWはRac/Cdc42→PAKシグナル不全を引き起こす機能喪失型変異であることがわかった。次に、マウス子宮内胎仔脳電気穿孔法を用いて神経細胞内のPlekhg2をノックダウンし(病態の模倣)、神経細胞発達への影響を検討した。その結果、生後0日時点の神経細胞移動には影響を与えなかったが、生後7日時点において顕著な樹状突起の形成不全、及び脳梁軸索投射の形成障害を示した。さらに生後14日時点において、樹状突起のスパイン密度が低下することを観察した。また、Plekhg2ノックダウンによる樹状突起形成不全は、Plekhg2の下流エフェクター(Rac3, Cdc42, PAK1)を発現させることによって改善されることも示した。以上の結果から、神経細胞の樹状突起・軸索形成過程において、PLEKHG2→Rac/Cdc42→PAK1シグナルが重要であり、そのシグナル不全による制御破綻が神経細胞の発達障害を引き起こすことが示唆された。本結果は、PLEKHG2変異による小頭症・ID発症機構を解明するための重要な知見となる。
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