ミトコンドリアは独自のゲノムであるミトコンドリアDNA(mtDNA)を有し、呼吸鎖複合体の構造遺伝子およびそれらの翻訳に必要なtRNA遺伝子やrRNA遺伝子をコードする。特に老化においては、mtDNAの変異が加齢に伴う個体機能低下と強く相関しており、老化制御に向けてmtDNA変異の分子機構の解明が重要な課題である。近年、核DNAで見いだされてきたエピジェネティクス修飾がmtDNAにも発見され、ミトコンドリアエピジェネティクス(ミトエピゲノム)の存在が明らかになりつつあり、その変容がミトコンドリアでの遺伝子発現を調節し、代謝機能の低下といった老化現象につながる可能性が高い。本研究では、加齢に伴うミトエピゲノム変化と代謝への影響を明らかにし、個体老化におけるミトエピゲノムの意義の解明を目的とした。初年度で超加齢マウス(~24ヶ月齢)のマウス臓器サンプル(肝臓・腎臓・骨格筋・心臓)を採取し、mtDNAの転写-複製に関連するタンパク質、TFAM、POLRMT、TFB2M、TWINKLE、POLG1、POLG2 について遺伝子発現量の比較を行った結果、6週齢マウスと比較して、超加齢マウスではこれらの遺伝子発現の低下が観察された。加えて、転写後修飾によって成熟し機能するtRNA修飾も加齢に伴い低下していた。これより、超加齢マウスにおいてmtDNA複製とミトコンドリア内転写・翻訳の低下が考えられたため、ミトコンドリアtRNAのコピー数を測定した。その結果、肝臓のほぼ全てのtRNAで有意に減少し、腎臓・心臓でも半数以上のtRNAについて有意な減少が観察された。興味深いことに、開始コドンmet-tRNAは肝臓・腎臓・心臓のどの臓器も有意に減少していた。加齢に伴うmtDNA転写翻訳機構の破綻が、十分な修飾tRNA供給を阻害し、加齢によるミトコンドリア機能低下の原因である可能性が示唆された。
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