本研究は、原因不明の末期腎不全症例の中に、1)潜在する遺伝性腎疾患が多数存在する可能性があること、2)主要な遺伝性腎疾患の原因遺伝子であるPAX2(Paired box gene 2)遺伝子に関連した遺伝子異常が存在する可能性があることに着目した研究である。これら背景から、PAX2により制御される遺伝子群に原因不明の末期腎不全をきたす遺伝子が存在すると仮説を立てた。 令和2年度では、PAX2遺伝子変異を有する腎コロボーマ症候群3例より疾患特異的iPS細胞を樹立し、ヒト腎発生過程におけるPAX2制御遺伝子の同定をおこなった。網羅的なトランスクリプトーム解析などを行うことで、ヒト腎発生過程のPAX2制御遺伝子に関する包括的なデータを得ることができ、令和3年度に論文として広く公開した。 令和3年度は、前年度に同定したPAX2制御遺伝子および既知のPAX2と関連する遺伝子群に広く着目した。抽出した遺伝子群に対してバイオインフォマティクスによる解析を行うとともに、マウス腎線維化モデルを用いた解析を行うことで、腎不全進展に与える意義を検討した。一部の遺伝子がCAKUTの原因遺伝子として報告されているとともに、腎不全進行に関与する可能性を見出すことができた。現在、より詳細なメカニズムについて追加解析中である。希少疾患に対する解析を基盤として、末期腎不全の新規進展機序の解明に繋がる可能性がある新規知見である。 本研究を通じて、希少疾患である遺伝性腎疾患の新規原因遺伝子同定に有用な知見に加え、より広く存在する慢性腎不全の病態解明・新規治療標的分子の同定に繋がる知見を得ることができた。
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