研究課題/領域番号 |
20K22899
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
荒澤 壮一 京都大学, 医学研究科, 医員 (90887366)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 肝癌 / B型肝炎 / 遺伝子突然変異 / 染色体異常 / インテグレーション |
研究実績の概要 |
肝癌は主として長期の慢性炎症の帰結としての肝硬変を背景とし、種々のゲノム異常の蓄積の結果として発癌に至る。しかしB型肝炎ウイルス感染者ではしばしば慢性炎症を伴わず、肝硬変なき若年者からも発癌することが知られている。本研究ではそのような肝硬変を背景とせざる肝癌のゲノム異常や遺伝子発現の特徴を解析することで、B型肝炎ウイルス感染者における非炎症性発癌のメカニズムを明らかにすることを目的とする。 2020年度は予定としていたB型肝炎関連肝癌の手術症例20例のうち19症例(肝硬変を背景とせざる症例9例ならびに対照群として肝硬変を背景とする症例10例)の集積を終え、各症例の癌組織ならびに背景肝組織からDNAおよびRNAを抽出した。また、抽出されたDNAを試料として次世代シーケンシングを行い、各症例の癌組織、背景肝組織それぞれの遺伝子突然変異を検出した。次世代シーケンシングは高精度、高速で膨大な遺伝情報の解析が可能な技術であり、特に癌関連遺伝子に標的を絞って解析することで癌組織を多様な遺伝子変異を有する細胞の集団として捉えることが可能となる。本研究では既報で知られた肝癌関連遺伝子30種類に標的を絞ることで、B型肝炎関連肝癌における肝硬変を背景とする発癌と肝硬変を背景とせざる発癌とそれぞれの遺伝子変異の特徴を集団的多様性まで含めて明らかにすることができた。 2021年度には遺伝子突然変異にとどまらず染色体のコピー数異常や、B型肝炎ウイルスのインテグレーション(ウイルスゲノム断片のヒトゲノムへの挿入)の解析、および組織からの抽出RNA試料を用いた癌関連遺伝子の発現の特徴の解析を行う予定であり、まず染色体の構造異常の解析を行うための試料の調整を2020年度中より開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では2020年度中に20症例を集積し、それぞれ癌組織、背景肝組織からDNAとRNAとを抽出する予定であった。2020年度終了時点で19症例の集積を終え、その全症例で癌組織、背景肝組織からのDNA、RNAの抽出を終えており、症例の集積は目標到達まで1例を残しているが、その点を除けば予定通りに進行している。 また、2020年度中に抽出したDNA溶液から次世代シーケンシング、第三世代シーケンシング、SNPアレイに用いる試料を作製する計画であった。次世代シーケンシングに関しては既に集積済みの19症例全例の試料作製を完了した。一方で第三世代シーケンシング、SNPアレイ用の試料作製はまだ開始していない。この点は計画よりもやや遅れている点である。 一方で、もともと2021年度に行う予定であった次世代シーケンシングを19症例全例について2020年度中に開始することができた。この点は予定より早く進行している。 上記を総合すると、実験によって多少の遅延や計画以上の進展はあるものの、概ね計画通りの順調な進展である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は残る1例の症例集積を進めるとともに、第三世代シーケンシングやSNPアレイの実験を進め、B型肝炎ウイルス感染者における非硬変肝からの肝発癌に関連するゲノムの変化を遺伝子突然変異のみならず染色体コピー数異常やB形肝炎ウイルスのインテグレーションまで含めて幅広く解析する予定である。また併せてメッセンジャーRNAの解析による肝癌関連遺伝子の発現の特徴の解明を進めて行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では第三世代シーケンシングならびにSNPアレイのためのDNA試料を2020年度に作製する予定であった。この過程を2020年度中に実施することができなかったため、当該過程に関わる試薬や消耗品の購入を行わず、従ってその分の金額を当該年度中に使用しなかった。 一方、2021年度に行う計画であった次世代シーケンシングの予定を繰り上げて2020年度中に実施したため、上記未使用分の金額と次世代シーケンシングに要した金額との差額として上欄の通りの次年度使用額となった。 今後の使用計画として2020年度に行えなかった第三世代シーケンシングならびにSNPアレイのためのDNA試料の作製を2021年度に行う予定である。また第三世代シーケンシングならびにSNPアレイの実験操作、メッセンジャーRNAの解析のための実験操作は当初の予定通り2021年度に行う予定であり、この分の助成金については当初の計画通りに使用する予定である。
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