肝癌は主として長期の慢性炎症の帰結としての肝硬変を背景とし、種々のゲノム異常の蓄積の結果として発癌に至る。しかしB型肝炎ウイルス感染者ではしばしば慢性炎症を伴わず、肝硬変なき若年者からも発癌することが知られている。本研究ではそのような肝硬変を背景とせざる肝癌のゲノム異常や遺伝子発現の特徴を解析することで、B型肝炎ウイルス感染者における非炎症性発癌のメカニズムを明らかにすることを目的とする。 2021年度には予定通り、全症例における癌細胞の染色体のコピー数解析および組織からの抽出RNA試料を用いた癌関連遺伝子の発現の特徴の解析を行った。まずマイクロアレイを用いた染色体のコピー数解析では、B型肝炎ウイルス感染者において、肝硬変を背景とせざる肝癌では肝硬変を背景とする肝癌と比べ、染色体の欠失が高頻度に認められることが判明した。染色体欠失はとりわけ肝癌における既知のがん抑制遺伝子のうち、特定の複数遺伝子領域において高頻度に認められた。一方、肝硬変を背景とする肝癌においては、肝発癌においてきわめて重要と考えられているTERTのコピー数増幅が高頻度に認められた。 また上記のがん抑制遺伝子の発現量を評価するため、欠失の認められた症例、欠失の認められなかった症例の癌組織より抽出されたRNAを用いて定量的逆転写PCRを行った。しかしながらこれらのがん抑制遺伝子の発現量は欠失の認められた症例と認められなかった症例とのいずれにおいても低値であり、両者の間に有意差は認められなかった。 本研究ではこれらのがん抑制遺伝子の発現量低下の原因同定には至っていないが、肝硬変を背景とせざるB型肝炎関連肝癌のうち染色体欠失を伴う症例では染色体欠失がその一因となっている可能性が示唆された。
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