本研究は、同種造血幹細胞移植後に、腸上皮細胞のミトコンドリア機能不全による酸素利用障害が腸管内酸素濃度の上昇を引き起こし、組織恒常性の破綻を引き起こす機序を明らかにすることを目的としている。これまでの検討より腸管内腔の酸素濃度上昇は腸上皮細胞内酸素濃度上昇により引き起こされていることを確認しており、この原因としてミトコンドリア障害が示唆されている。このため本年度はミトコンドリアに着目した検討を行った。 ミトコンドリア機能の検討:GVHDおよび非GVHDマウスから単離した腸上皮細胞におけるミトコンドリア呼吸機能を検討するため、bioenergetic analyzer (Seahorse)を用いて酸素消費量を測定したところ、GVHDマウス由来頂上皮細胞は非GVHDマウスと比較して約半分の基礎酸素消費量を呈しており最大酸素消費量も極端に低下していた。 ミトコンドリアmetabolome解析:ミトコンドリア機能の検討からミトコンドリア障害が明らかになっており、障害部位を特定するため、metabolome解析から障害部位の同定を試みた。Naive、非GVHD、GVHDマウスからGVHD標的臓器である腸上皮細胞を単離し、液体クロマトグラフィーによる解析を行った。GVHDマウスにおいて、succinateの著増ならびにcitrateやfumarate等のその他metabolomeの著減を認めた。解糖系の指標となるLacteateは各群において相違を認めず、これらの結果からTCA回路におけるSuccinate dehydrogenase(SDH)の障害が考えられた。 今後はSDHの障害に着目し、同種造血幹細胞移植後にdysbiosisが発症するかを明らかにし、治療標的として今後のさらなる研究を行う予定である。
|