多発性硬化症において、免疫応答の標的とされる神経細胞の能動的な機能について十分に解明されていない。我々はDesigner Receptor Exclusively Activated by Designer Drugs (DREADD)を用いた先行研究で、EAEにより活性化された神経細胞で産生されたCCL2が、病原性CD4陽性細胞をEAE病変部へ浸潤させることを明らかにした。CCL2をノックダウンしてもCD4陽性細胞の脊髄内への浸潤は完全には消失せず、神経症状も完全回復しなかったことから、神経細胞由来の他のケモカイン系の関与が示唆された。 本研究では、胸髄限局型EAEモデルを用い、AAV9を用い抑制性DREADDを病変部に発現させ、神経活動を抑制した。神経細胞抑制は病変部脊髄のCXCL10 mRNAの発現を減少させた。抑制性DREADDを用い神経活性化を抑制した胎生期皮質ニューロンをEAEマウスの脾臓由来CD4陽性細胞とin vitroで反応させる遊走試験で、皮質ニューロンのCXCL10 mRNAの発現低下とCD4陽性細胞の遊走能の減弱を認めた。神経細胞がCXCL10を介して病原性CD4陽性細胞の遊走を促進する免疫細胞的作用を有する可能性がある。 胃で産生されるペプチド グレリンはEAEマウスの病態抑制効果を有すると報告されている。本研究ではさらに、グレリンの低分子アゴニスト アナモレリンの多発性硬化症に対する治療効果も検討した。EAE誘導後14日間アナモレリンを腹腔内投与すると、神経症状が軽減し、病変部におけるリンパ球数が減少傾向を示した。EAEマウスの脾臓由来のCD4陽性細胞をMOGで再刺激し、アナモレリンと反応させるとTNFαとIFNγの mRNA発現が減少した。アナモレリンは抗炎症作用を有し、多発性硬化症の病態を改善する効果が期待される。
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