研究課題/領域番号 |
20K22910
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 多発性硬化症 / エキソソーム / グリアコネキシン / 脱髄炎 |
研究実績の概要 |
多発性硬化症(multiple sclerosis, MS)ではグリアギャップ結合蛋白コネキシン(Cx)43が急性脱髄病巣で喪失し慢性期に増加する。Cx43遺伝子のGJA1はN末短縮イソフォーム(GJA1-26kDイソフォーム)もコードする。GJA1-26kDイソフォームはチャネル機能は持たないが、RNA結合ドメインを有している。本研究では、健常対照(healthy control, HC)とMS患者で末梢血の血清中エキソソームを精製し、抗Cx43抗体でウェスタンブロットを行った。その結果、HCに比べてMSでは急性再発期と慢性進行期にGJA1-26kDイソフォーム発現エキソソームが著増することを見出した。さらに、MSの動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(Experimental autoimmune encephalomyelitis, EAE)で、急性期から慢性期にかけて、末梢血の血清中エキソソームのウェスタンブロットで、GJA1-26kDイソフォームを発現するエキソソームが増加していることを発見した。EAEでは脱髄炎は主に脊髄に生じる一方、脳皮質アストログリアがEAE発症前に活性化することが報告されていたが、その意義は全く不明だった。脳皮質アストログリア特異的・時限的にCx43をinducible conditional knockout (icKO)したところ、脊髄の脱髄炎が著明に減少するとともに、GJA1-26kDイソフォームを含有するエキソソームが著減した。以上から、アストログリア由来のGJA1-26kDイソフォームを発現するエキソソーム(グリオソーム)は、脱髄炎を遠隔性に制御している(増悪させている)と考えた。今後、その機序の解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年度では、多発性硬化症(multiple sclerosis, MS)の動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis, EAE)において、末梢血の血清から精製したエキソソームの抗Cx43抗体によるウェスタンブロットで、急性期から慢性期にかけて免疫前に比べてGJA1-26kDイソフォームが著明に増加していることを見出した。脳皮質アストログリア特異的・時限的にCx43をinducible conditional knockout (icKO)したマウスでは、EAEが軽減するとともに、GJA1-26kDイソフォームを含有するエキソソームが著減した。またCx43 icKOマウスでは脾臓リンパ球からの抗炎症性サイトカインIL-10産生が亢進し制御性T細胞(Treg)が誘導され血清IL-10が増加した。したがって、GJA1-26kD isoform発現エキソソームは、脳皮質アストログリア由来でTregの誘導を抑えるなどの機序でEAEを増悪させていると考えた。そこで、健常対照(healthy control, HC)とMS患者で末梢血の血清中エキソソームを精製し、抗Cx43抗体でウェスタンブロットを行ったところ、HCに比べてMSでは急性再発期と慢性進行期にGJA1-26kDイソフォーム発現エキソソームが著増することを見出した。したがって、GJA1-26kDイソフォーム発現エキソソームはヒトでもMSの増悪に関連していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、EAEにおいては、①野生型、脱髄炎が軽減するCx43 icKOの各マウスでEAE各病期に採血する。②エキソソーム抽出キットにより全エキソソーム分画を精製し、セルソーターによりGJA1-26kD isoform を発現するエキソソームのみを分離し、含有されているMiRを次世代シークエンスで解析しEAEの各病期で特徴的に変動するMiRを同定し、定量PCR法で確認する。③GJA1-26kD isoform発現エキソソームに含有されるグリア由来の分子(Glial fibrillary acidic protein, GFAP)や炎症性サイトカインを、超高感度デジタルELISAのsingle molecule assay (SIMOA)法で計測する。MSにおいては、④MS患者の各病期でエキソソーム抽出キットにより全エキソソーム分画を精製し、GJA1-26kD isoformを発現するエキソソームをセルソーターで精製し、上記EAEで脳グリア由来エキソソームに含有されることが示されたMiRやGFAP、炎症性サイトカインを定量的PCR法やSIMOA法で測定する。⑤MS患者の臨床情報とGJA1-26kD isoform発現エキソソーム量やこれらに含有されるMiRやGFAP、炎症性サイトカインとの相関を解析し、MS各病期に特異的なCx発現エキソソームやそれに含有されるMiR等を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染のために2020年度は学会発表を行わなかったので、旅費が使用されなかった。その分、2021年度に学会発表をする予定である。また国際学会などや英語論文の執筆がなかったので、その他の英文校正料が発生しなかった。新型コロナ感染のために実験の進行がやや遅れたので、物品費が若干使用されず、2021年に使用する予定である。
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