腸内細菌叢の変化が自閉スペクトラム症(ASD)の症状に大きく影響することを示唆する報告から、近年ASD発症の環境的要因として腸内細菌叢が注目されている。 本研究は、ASDの原因の一部と考えられる環境的要因(妊娠期の細菌・ウイルス感染や薬物服用)を模倣した刺激を負荷したASDモデルマウスを用いて形態学的・生化学的・行動学的解析を行い、その脳内での病態変化を探ることによりASD脳で起こると予想される変化と、その変化に腸内細菌がどう関与するのかを見出し、ASDの分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。 本研究では第一に、ASDの中核症状「社会性・コミュニケーションの障害」と「行動や興味の偏り」に相当する齧歯類を用いたASD様行動試験系のセットアップと、腸内細菌の有無による違いを調べるためのモデルとしてアイソレーター内で維持する無菌(GF)マウスを導入した。しかしながら、この腸内細菌叢を持たないGFマウスにおいて、通常環境で生育するマウスと異なるASD様の行動や形態学的表現型は観察されなかった。 この様にGFマウス単独ではASD様の異常を観察できなかったが、これまでに決定的なASDの原因がわかっていないことを鑑みると異なる危険要因の組み合わせでASDが発症する可能性が考えられる。そこで第二に、GFマウスの胎生期の母体にASDの環境的要因を曝露したASDモデルマウスを作製し(GF-ASDマウス)、通常環境の同ASDモデルマウスとの比較検討を行った。この結果、ウイルス感染を模倣した刺激を与えたGF-ASDマウスにおいてASD様行動がより強く観察された。このことから、一部のGF-ASDマウスでのASD様行動に腸内細菌叢の有無が影響することが示唆された。一方で、現在までにこのGF-ASDマウス脳内での異常を見出すには至っていないので、今後も継続して形態学的解析を行っていく予定である。
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