研究実績の概要 |
APDS, APDS-Lの免疫不全およびリンパ組織増殖の発症機序を解明するため、下記の解析・検討を行った。 a) AKT-FOXO1シグナル伝達経路の異常による免疫不全発症機構の解明 APDS, APDS-L患者リンパ球を用い、FOXO1のリン酸化亢進と免疫不全重症度の相関を検討した。APDS, APDS-L患者リンパ球において、FOXO1で転写されるBim, FasL, TRAIL, p27Kip1,p130などの蛋白発現をウェスタンブロット法により解析した。免疫不全症を呈するAPDS、APDS-L患者のリンパ球ではFOXO1のリン酸化が亢進しており、FOXO1の下流の分子のうち、特にBim,p27Kip1の発現亢進が認められたことから、免疫系細胞のアポトーシス亢進や細胞周期の異常がAPDS,APDS-L患者の免疫不全発症に寄与している可能性が考えられた。 b) ERK経路異常活性化によるリンパ組織増殖症発症機序の解明 リンパ節腫脹を呈したAPDS患者及びリンパ節腫脹を呈さないAPDS-L患者のリンパ球で、ERKの発現を解析した。APDS患者のリンパ球ではERKの発現が亢進していた。一方で、APDS-L患者のリンパ球ではERKの発現異常は明らかではなかった。特に、APDS2(PIK3R1機能喪失型変異)患者のリンパ球ではERKの発現が亢進が著明であった。APDS2患者ではリンパ腫(多くはB細胞性リンパ腫)の発症頻度が高いことが複数の論文で報告されており、ERKの発現異常がリンパ腫の発症に関与している可能性があると考えられた。これらの研究成果について、論文投稿の準備を進めているところである。
|
今後の研究の推進方策 |
APDS患者リンパ球でのFOXO1の転写活性、細胞内局在の検討を行い、免疫不全症の発症機序を解明する。FOXO1のリン酸化レベルと免疫不全症状との相関関係を明らかにする。 患者リンパ球から樹立した活性化T細胞のRNAシークエンスを行い、mRNAプロファイリングにより、免疫に関与する変動遺伝子群を抽出する。 APDSのリンパ組織増殖症発症機序の解明のため、ERK経路の下流分子であるc-MYC, MEF2D,MEF2Cなどの発現を解析し、APDS患者のリンパ組織増殖症の発症にERK経路の異常活性化が関与していることを明らかにする。 また、APDSの免疫不全症状・リンパ組織増殖症に対する新規治療標的として、FOXO1及びERK、その下流の分子群に着目し、それぞれの阻害剤や分子標的薬を用いて、in vitroでその効果を検証する。
|