研究実績の概要 |
前年度には、正常肺組織の単一細胞遺伝発現プロファイル(The Tabula Muris Consortium, Nature, 2020;583:590-595; Du et al, Thorax, 2017;72:481-484)を用い、機械学習にて腫瘍細胞の性状分類の系を構築することを試みた。その中で、正常肺組織の単一細胞遺伝発現データをインプットデータとして、ニューラルネットワークの学習を行い、その後にそれを腫瘍細胞の遺伝子発現データに適用し、腫瘍細胞の性状を判定する系を構築した。 そこで、当該年度には、それを肺癌の遺伝子発現データに対して応用し、上皮系の性状を持つ腫瘍細胞集団と、間葉系の性状を持つ腫瘍細胞集団を分類し、各細胞集団の臨床情報と照合することで、単一細胞遺伝発現プロファイルに基づく上皮/間葉の分類が予後と相関するか否かを検討した。その結果、間葉系の性状を持つ腫瘍細胞集団を有する肺癌患者は、上皮系の性状を持つ腫瘍細胞集団を有する肺癌患者に比べて、全生存期間が短い傾向が得られた。 この結果は、正常組織の単一細胞遺伝発現プロファイルをもとにした腫瘍細胞の性状分類が、予後予測に寄与する可能性を示すものである。さらにそれは、正常組織の発生系に類似した(もしくはそれに逆行した)過程が、腫瘍進展において展開されている可能性を示唆していると考えられる。 今後は、個体間の解析に加えて、単一個体において、腫瘍進展の時間軸の中でどのような性状変化が生じているのか、という観点からも解析を進める予定である。
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