研究課題
血圧変動性(血圧値の動揺)の増大が、脳血管疾患や心臓病等の心血管疾患、腎臓病、認知症の発症進展と関連すると報告されている。臨床的には、血圧変動性の種類として、一拍毎の変動から受診間(数日~数ヶ月)の変動まで、様々な時間軸の変動性がある。しかし、時間軸の長短に関係なく、変動性増大と心血管疾患リスク上昇の関連が報告されており、変動性増大の基盤となる共通のメカニズム・病態の存在を示唆している。それらを明確にして、治療介入することが、上記疾患の予防や進展抑制につながる可能性がある。しかし現在、クリニカルクエスチョン「血圧変動性増大は、治療介入すべき病態か、または、単なるリスクマーカーか」への回答は得られておらず、治療介入手段も明確でない。さらに、これらの課題を解決するための動物モデル実験系に乏しい。本研究では、変動性増大の基盤となる共通のメカニズム・病態解明を目指して、血圧変動性増大の研究に適切な動物モデル実験系の開発に取り組んだ。本研究代表者は、既に、アンジオテンシンII(Ang II)を、ラットに持続投与することにより、血圧変動性増大のモデルが作成可能であることを報告している。本研究により、ノルアドレナリン(NA)の持続投与にても、モデル実験系の作成が可能であることが判明した。フェニレフリンの持続投与でも、同様の変動性増大が生じたが、イソプレナリンでは血圧変動性は増大しなかった。また、NAによる変動性増大は、プラゾシンによる抑制されたが、アテノロールでは抑制されなかった。すなわち、NAの血圧変動性増大作用は、α1受容体を介していることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
1.ラットへのノルアドレナリン(NA)の持続投与により、血圧変動性増大の動物モデル実験系の作成が可能であることを明らかにして国際学会で発表した。2.NAによる血圧変動性増大は、交感神経刺激薬や遮断薬を用いた実験により、α1受容体を介した作用であることを明らかにした。
動物モデル実験系の開発研究を継続しつつ、血圧変動性増大のメカニズムと臓器障害の機序を解析して、これまでに開発した動物モデルの病態生理を解明する。① 変動性増大のメカニズム:既に開発した動物モデルの血圧変動性増大の機序を解明する。まず、動物モデルの圧受容器機能の解析を目的として、弓部大動脈や頚動脈洞の血管壁厚の計測、コラーゲンやエラスチンの発現定量により、血管硬度の定量を試みる。硬度の定量に、形態学的・分子生物学的方法を用いる理由は、血管の収縮や拡張のex vivo定量方法は確立しているが、血管硬度「stiffness」を、ex vivoで定量することが難しいからである。② 臓器障害の評価:血圧変動性増大ラットモデルの臓器障害(脳、心臓、腎臓、血管)の程度を定量する。評価項目は以下のとおりである。脳:認知機能(水迷路または放射状迷路により評価);心臓:左室肥大・線維化、BNP遺伝子発現;腎臓:アルブミン尿、蛋白尿、組織学的評価;血管:大血管(大動脈、頚動脈)および脳・心筋・腎臓内の細動脈の中膜肥厚や硝子変性。異なる動物モデルの臓器障害の差異、および降圧治療効果の差異を観察することにより、モデル作成のために投与した物質や血圧上昇の影響を除外した血圧変動性増大による臓器障害を明確にする。
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Peptides
巻: 142 ページ: 170567~170567
10.1016/j.peptides.2021.170567
Biochem Biophys Res Commun
巻: 559 ページ: 197~202
10.1016/j.bbrc.2021.04.063