研究課題/領域番号 |
20K22936
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松田 真太郎 京都大学, 医学研究科, 医員 (80881838)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 脂肪細胞 / Nardilysin / ナルディライジン / 脂肪組織 / インスリン抵抗性 / インスリン感受性 / 肥満 |
研究実績の概要 |
肥満における糖代謝異常は世界的に問題となっている病態の一つであり、その分子メカニズムの解明は今後の糖尿病治療において重要である。研究者はM16ファミリーに属するメタロペプチダーゼNardilysin(NRDC)の分子生物学的役割について、脂肪組織における代謝機能の観点から研究を行っている。これまでNRDCを欠損したマウスでは野生型と比較して低体重となり、インスリン分泌機能の低下とインスリン感受性の亢進が認められていることが報告されている。研究者は脂肪細胞特異的NRDCノックアウトマウスで、高脂肪食下にインスリン抵抗性が軽減され、脂肪組織における慢性炎症が抑制されていることを見出している。本研究では脂肪細胞におけるNRDCが代謝機能に及ぼす役割について脂質・糖代謝の観点から究明することを主眼としている。 3T3-L1培養脂肪細胞による解析の結果、NRDCのノックダウンによって脂肪細胞の脂質貯留の減少、細胞酸素消費量の低下が認められており、NRDCが脂肪細胞内においてエネルギー代謝を調節していることが示唆されている。培養細胞におけるこれら諸現象と、NRDCノックアウトマウスにおける表現型を結び付けるメカニズムについて今後解析を進める予定である。 NRDCは細胞質、核内、ミトコンドリア、細胞表面など広範囲に局在しているため、どこのNRDCのどのような機能が今回の糖代謝に関する表現型を反映しているかが重要であるが、これまでの研究結果より、ミトコンドリアにおけるNRDCが今回の表現型を反映しているメカニズムとして重要と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3T3-L1培養脂肪細胞における研究を中心に、脂肪滴貯留の定量化、ミトコンドリア機能の定量化の実験系の確立を行っている。また、NRDCがPPARγの転写活性を調節しているという仮説のもとに、レポーターアッセイを行ったが、NRDCのノックダウンによる転写活性に有意な差を認めず、本仮説は否定的となった。一方で、脂肪滴貯留のに関してはNRDCノックダウンにより、3T3-L1細胞の分化誘導後の脂肪滴貯留が減少する傾向が認められることから、脂肪合成経路あるいは、脂肪のβ酸化経路に何らかの影響を及ぼしていることが考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果を踏まえ、NRDCが糖代謝の表現型を及ぼす役割とNRDCの分子生物学的機能を結びつける機構について、低酸素シグナルを主軸に解析を進める。培養細胞を用いてNRDCがHIF経路の下流で主に炎症パスウェイと関連しているかを確認する。さらにHIFの上流を動かす経路としてミトコンドリア機能に着目して解析を行う。NRDCがTCA回路に重要なαケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(ODGH)のco-chaperoneとして機能することが報告されており、脂肪細胞におけるNRDCがエネルギー代謝経路に及ぼす影響についてメタボロミクス解析を行うことを検討している。それに基づいて、脂肪細胞の機能調節の分子生物学的メカニズムを解明することで、哺乳類個体における糖尿病病態モデルにおけるNRDCが及ぼす役割について更なる解明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症流行に伴い、各種学会がウェブ開催となり出張費用が予定よりも低額となった。 次年度使用額については今後、動物組織あるいは培養細胞由来のサンプルの外注委託解析に伴う費用として使用することを予定している。
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