肥満患者では造血再生障害がみられ、造血幹細胞移植においてより多くのドナー細胞を要する。造血再生を負に制御する骨髄内脂肪細胞(BMA)が豊富に存在することから同細胞の関与が示唆されるが、肥満患者においてBMAがどのようなメカニズムで造血再生を抑制しているのかは不明である。本研究では、線溶系を阻害するアディポカインであるplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)に着目し、BMAがPAI-1を介して造血再生を負に制御していることの証明を試みた。 まず、BMAがPAI-1を産生することを、免疫染色、FACS、qPCRで証明し、BMAが豊富な骨髄において造血再生が遅延し、またPAI-1ノックアウトマウスやPAI-1阻害剤投与でこれが改善することを示した。 次に、高脂肪食負荷した肥満マウスと通常体重マウスの骨髄を比較し、肥満マウスにおいてBMAが豊富に存在することを実証した。骨髄移植後の骨髄線溶系および造血再生を比較し、肥満個体の骨髄中ではBMA由来の豊富なPAI-1が線溶系を抑制し、tissue-plasminogen activator(t-PA)およびplasminが減少し、stem cell factorが低下することで造血が抑制されることを確認した。さらに、PAI-1阻害剤を投与することによって抑制されていた線溶系が活性化、すなわちt-PAおよびplamsminが増加し、stem cell factorの増加を介して肥満個体でも効率の良い造血再生が達成できることを実証した。 これらの結果から、肥満個体において豊富に存在するBMAはPAI-1を介して骨髄内線溶系を抑制し、造血再生を負に制御していると考えられた。本研究によって、骨髄内脂肪細胞による造血再生抑制の治療標的が明らかとなり、ドナーが見つからない肥満患者への移植適応拡大が期待できた。
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