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2020 年度 実施状況報告書

胎盤幹細胞モデルを用いた妊娠高血圧症候群のエピゲノム制御に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 20K22943
研究機関東北大学

研究代表者

小林 枝里  東北大学, 医学系研究科, 助教 (70634971)

研究期間 (年度) 2020-09-11 – 2022-03-31
キーワードヒトTS細胞 / 妊娠高血圧症候群 / エピゲノム
研究実績の概要

妊娠高血圧症候群(HDP)は、妊娠によって妊婦が高血圧を発症する疾患であり、胎児発育不全の原因になるとともに母体に様々な合併症を引き起こす。HDPの発症には、母体側の要因だけでなく、胎盤形成の異常や、胎盤から分泌される血管新生阻害物質などが関与すると考えられている。先行研究から、HDP患者の胎盤でDNAメチル化の異常が報告されており、胎盤におけるDNAメチル化や、ヒストン修飾などのエピゲノム制御の異常が、HDPの病態に関与していることが予想される。しかし、HDPの病態形成に関与する胎盤のエピゲノム特性にはいまだ不明な点が多い。本研究室では、妊娠初期のヒト胎盤より単離した細胞性栄養膜細胞(CT細胞)より、長期培養可能なヒト栄養膜幹細胞(ヒトTS細胞)の樹立に成功した(Okae et al., Cell Stem Cell, 2018)。ヒトTS細胞は、増殖能をはじめとする妊娠初期のCT細胞の特徴を維持し、CT細胞から分化する絨毛外栄養膜細胞(EVT細胞)や合胞体栄養膜細胞(ST細胞)への分化誘導が可能である。さらに、本研究室では出産後の胎盤からヒトTS細胞を樹立する方法を発見しており、HDPの症例から非侵襲的に検体を得ることができる(未発表データ)。本研究では、正常およびHDP由来の満期胎盤から採取したCT細胞、そしてそれらの細胞から樹立したヒトTS細胞を用いて、DNAメチル化やヒストン修飾といったエピゲノム修飾の違いや、エピゲノムの異常によって生じる遺伝子発現の違いを明らかにし、HDPの発症機序の理解につなげることを目的とする。今年度は、正常妊娠およびHDP患者由来の満期胎盤から採取したCT細胞の遺伝子発現およびヒストン修飾について解析を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

HDPに特異的な遺伝子発現およびエピゲノム修飾を明らかにする目的で、正常妊娠およびHDP患者由来の満期胎盤から採取したCT細胞を用いて、RNA-seq解析およびCUT&TAG-seqによるヒストン修飾領域の解析を行った。正常妊娠3例、HDP6例について、満期胎盤由来のCT細胞をソーティングし、CT細胞のマーカーであるCD49陽性の生細胞を分取した。これらの細胞からmRNAを調製してcDNAを合成し、RNA-seqを行ったところ、一部の遺伝子で正常群と疾患群の間に発現量の違いが見られたものの、全体的な遺伝子発現パターンには大きな差はみられなかった。さらに、同じ検体から分取したCT細胞を用いてCUT&TAG-seqを行い、ヒストン修飾の検討を行った。プロモーター領域に局在するH3K4me3、エンハンサー領域に局在するH3K4me1とH3K27ac、遺伝子領域に局在するH3K36me3、転写抑制領域に局在するH3K27me3とH3K9me3の分布を検討したところ、少数の領域は疾患特異的なヒストン修飾パターンを示したものの、満期胎盤CT細胞においては、疾患の有無によるヒストン修飾の差は比較的小さいことが明らかになった。全体的にサンプル間の差は小さく、CUT&TAG-seqによって再現性のあるデータを得られることが確認できた。満期胎盤CT細胞のDNAメチル化解析およびsmall RNA-seq解析についてもライブラリの作成が完了しており、近日中に解析を行うことができる。

今後の研究の推進方策

これまでの解析により、妊娠の終結時に得られる満期胎盤由来のCT細胞では、正常群とHDP群の間で、遺伝子発現やヒストン修飾に大きな差がないことが明らかになった。CT細胞は、増殖を繰り返し分化することでEVT細胞やST細胞を供給することが主な役割である。EVT細胞は母体組織に浸潤して血管を拡張する役割を担うことから、その機能不全は血管のリモデリング不全を引き起こし、HDP発症につながる可能性がある。ST細胞は母体との間のガス・栄養交換およびホルモン産生を行なっており、HDP患者の血中で増加して血圧を上昇させることが知られているsFLT1もまたST細胞から分泌されている。したがって、HDP発症につながるエピゲノム修飾の変化は、EVT細胞やST細胞で起きている可能性がある。しかし、満期胎盤からEVT細胞やST細胞を分取する方法は確立されていない。そこで、今後は正常およびHDP由来のCT細胞からTS細胞を樹立し、それらのTS細胞およびそこから分化誘導したEVT細胞やST細胞の遺伝子発現やヒストン修飾について比較を行う。また、満期胎盤由来CT細胞のDNAメチル化やsmall RNAの発現についても検討を行う予定である。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2020

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)

  • [雑誌論文] Unique features and emerging in vitro models of human placental development2020

    • 著者名/発表者名
      Shibata Shun、Kobayashi Eri H.、Kobayashi Norio、Oike Akira、Okae Hiroaki、Arima Takahiro
    • 雑誌名

      Reproductive Medicine and Biology

      巻: 19 ページ: 301~313

    • DOI

      10.1002/rmb2.12347

    • 査読あり / オープンアクセス

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公開日: 2021-12-27  

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