研究課題/領域番号 |
20K22945
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺田 類 東京大学, 医学部附属病院, 特任臨床医 (30880984)
|
研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
キーワード | 産科危機的出血 / クリオプレシピテート / 中空糸膜 |
研究実績の概要 |
大量出血症例では、新鮮凍結血漿(FFP)のかわりに低温融解により凝固因子成分を析出・濃縮したクリオプレシピテート(以下クリオ)を投与することで、効率のよい凝固因子の補充・患者の止血能の速やかな回復が実現し、治療予後が改善することが期待される。一方、クリオの調製には約2日の低温融解や析出凝固因子成分回収のための大型遠心機の必要性など複数の制約が存在するため、使用できる施設・病院が限定される。本研究は、新規に開発した中空糸膜法で簡便かつ迅速に調製したクリオ(中空糸膜クリオ)が、通常のクリオやFFPと同等以上の止血効果を持つかなどの、有効性と安全性を評価するための前向き介入研究である。 今回使用する中空糸膜は、現在血漿交換療法に臨床使用されているが、本使用は適応外使用であること、凝固因子などの違いで動物を用いた基礎実験ができていないことを考慮し、まず中空糸膜を用いて作製したクリオの構成成分を網羅的に測定した。 具体的には、凝固因子関連(ATⅢ活性、PT、 APTT、 Fib、 FⅡ、FⅤ、FⅦ、FⅧ、FⅨ、FⅩ、FⅩI、FⅩⅡ、FⅩⅢ、vWF)、血漿蛋白関連(total-プロテインS抗原量、プロテインC活性、total-プロテインS抗原量、ADAMTS13、 総蛋白、アルブミン、グロブリン(抗体量))、二次元電気泳動法と質量分析法によるプロテオーム解析の測定をおこなった。 結果としては、従来の作製方法で作製したクリオ(従来クリオ)と比較し、フィブリノゲン濃度は遜色なく、FⅩⅢは2.5倍、半減期が24時間以内と比較的短いFⅤ、FⅦ、FⅧ、FⅨも従来クリオと同等もしくは高値を示した。また、プロテオーム解析では、新たなタンパクの精製もしくは一部のタンパクの異常濃縮等を認めず、製剤としての安全性の証明をおこなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回使用する中空糸膜は、上記でも述べたように、現在も臨床応用されており、人に使用しても良いと判断したが、さらなる安全性(構成成分)の評価をするよう指摘を受けたため、網羅的な構成成分を測定するために時間を要した。 また、申請時は3群比較で対象を心臓手術患者としていたが、①FFP投与群、従来のクリオ投与群、中空糸膜クリオ投与群の3群比較を予定していたが、非劣性パイロット研究であり、最小限の症例数とするため、FFP群をなしに計画変更したこと。②当院では、2020年より従来のクリオの運用を開始しているが、今のところ危機的産科症例のみに使用しており、研究の運用を総合的に考え、心臓手術症例から危機的産科症例に対象を変更したこと。の2点の変更を加えた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、上記のように、対象と運用の変更、また安全性の評価結果を含め、倫理委員会に提出中である。 簡単な概要としては、対象は、危機的産科出血患者である。当院における同種クリオ運用マニュアルの適応基準を満たす患者(視認可能な出血があり、臨床的出血傾向が明らかであるか、150 mL/minを超える急速出血が疑われる場合、もしくは、フィブリノゲン値が150 mg/dL未満(PoCT検査値を含む)を認めた場合、研究対象となる。除外症例は研究参加の同意の取れていない患者と先天的な凝固因子異常患者とする。 主要評価項目は、推定フィブリノゲン値との比較である。(推定フィブリノゲン値との比較=クリオ投与後のフィブリノゲン実測値と理論上の推定フィブリノゲン値の差。)副次評価項目として実測出血量、輸血量、合併症発生率(発熱などのアレルギー反応、輸血後循環負荷(TACO)、アナフィラキシー、術後全身・局所細菌感染症)、術後入院期間、退院時Hbである。 従来の方法で作製されたクリオ投与群と中空糸膜を用いて作製されたクリオ投与群の2群比較であり、単施設の前向き介入研究である。研究参加期間としては、クリオ投与から退院までの期間で、サンプルサイズはRを用いて算出し、各群22症例の計44症例と設定した。 特定臨床研究であり、他の研究と比較し、倫理委員会の承認を得るのに、時間を要するが、承認を取得次第、すぐに研究を開始する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
追加で安全性の評価を行い、また研究計画に一部変更があったため、本研究がまだ始動していないため。
|