脂肪分解が膵液瘻に与える影響を明らかにするためのツールとして、肥満ラットを用いた膵切離膵液瘻モデルの確立のための実験を行い、これを確立した。ラットに対して膵切離のみを行うことによる従来の膵液瘻動物モデルと比較し、脂肪に対する熱凝固処置を加えることで、膵液瘻の病態が有意に重篤化し、生存率が低下することが示された。これまで報告がなかった重症度に応じた膵液瘻動物モデルを初めて確立したという点において、意義深い結果である。また膵液瘻病態において脂肪分解に伴う遊離脂肪酸産生が膵液瘻重症化に寄与するという報告はすでに行われていたが、この報告では人工的に中性脂肪を腹腔内に投与する方法が脂肪供給源として用いられており、臨床的な状況とは異なっている可能性があった。この点で本研究で確立した動物モデルはより臨床に側した状況を擬しているといえることも意義深い点である。 難水溶性物質である脂肪分解酵素阻害剤による術後膵液瘻防止法を臨床応用するために、生体適合性・両親媒性高分子を用いた腹腔内投与方法を考案し、薬物動態を含めた基礎的検討を行った。ポリエチレングリコール等を適切な比率・条件で脂肪分解酵素阻害剤と混合・調整することで脂肪分解酵素阻害剤の腹腔内投与を安全に実施することが可能になった。研究成果に基づいて、脂肪分解酵素阻害剤の腹腔内投与を行い、動物モデルにおいて膵液瘻の重症化を軽減させることができるという結果を得た。本研究成果に基づき企業と共同研究を開始し、ヒトへの臨床応用にむけてより効率のよい腹腔内投与方法の検証を開始した。
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