研究課題/領域番号 |
20K22961
|
研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
芝 聡美 自治医科大学, 医学部, 助教 (70721603)
|
研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
キーワード | ムチン / 腫瘍浸潤リンパ球 / 固形腫瘍 / 多重免疫染色 |
研究実績の概要 |
糖尿病の既往が乳癌発症リスクを増加させるが、経口糖尿病薬メトホルミンの服用は癌の発生率低下および死亡率を低下させることが示唆されている。そこで、2006年から2020年8月までに手術加療を行った糖尿病合併乳癌症例29例のうち、臨床病理学的因子、経過、NLRの検討が可能であった177例を対象として、臨床病理学的因子、末梢好中球リンパ球比(NLR)、再発、無再発生存期間について検討するとともに、切除検体を用いた免疫染色にて腫瘍に浸潤したリンパ球、マクロファージ、好中球のフェノタイプとムチンの発現パターンを検討した。メトホルミン服用症例は49例、非服用症例は128例であった。初診時StageⅢ、NLR、サブタイプ分類では、両群で有意差は認めなかった。しかし、再発症例はメトホルミン投与群3例(6%)で、非投与群18例(13.7%)と比べて低い傾向を認めた。また、術前化学療法を施行した症例において、Grade3のCR症例はメトホルミン投与群で5例(55.6%)あり、非投与群5例(16.1%)と比べて有意に高かった(p=0.05)。これらのうちメトホルミン投与群、非投与群各20例で免疫染色を施行したところ、腫瘍内に浸潤したCD3(+) CD8(+) T細胞の割合は投与群で高く、CD163(+)M2型マクロファージは投与群で低い傾向を認めた。一方、MUC1, MUC2, MUC5AC, MUC6の発現様式は二群間で特記すべき傾向は見られなかった。メトホルミンは乳癌組織中の免疫環境に変化を与える事で、乳癌の予後や抗癌剤感受性に影響を与えている可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マルチプレックス多色免疫染色法を導入することで、乳癌切除検体の同一組織切片内の浸潤細胞のフェノタイプを識別する方法論の確立に成功した。この方法を用いて、メトホルミン服用の有無による乳癌組織内のリンパ球、マクロファージ、好中球のフェノタイプと浸潤様式の違いについて一定の傾向を認め、それが患者予後や術前化学療法の奏効性と相関する傾向があることが確認できた。しかし、各種のムチンの発現パターンと相関性については、現時点では有意な傾向は認められていない。今後さらに症例を増やして治療の選択や予後予測の上で有用なバイオマーカーとなりうるかを検討する上での技術的基盤は確立できた。
|
今後の研究の推進方策 |
当科にて過去に切除し予後の解っている膵癌40例と追加の乳癌50例のホルマリン固定組織切片を作製し、MUC1, MUC2, MUC5AC, MUC6に焦点を絞り、免疫染色を行う。さらに、同切片で腫瘍微小免疫環境を反映した、(1)T 細胞サブセットパネル、(2) T 細胞の活性化、疲弊マーカーパネル、(3)マクロファージ分類、樹状細胞分類、免疫チェックポイントパネル、の3種類の免疫細胞/分子のプロファイリングパネルを用いて、多重免疫染色を行う。これらの各分子の染色ごとの画像をオートスキャナーに取り込み、全染色が終了後に画像の重ね合わせを行い、各群のHot spot を抽出し、陽性細胞数のカウントを行い、各マーカーの局在を可視化する。カウント結果は、解析ソフト(FCS Express) を用いて定量を行い、組織画像と合わせ最終的な分析を行う。これらの免疫染色結果を各患者の臨床情報や予後と照合し、特定のムチンと浸潤細胞の染色パターンが膵癌、乳癌に対する局所免疫に如何なる影響を与えているか?を推定するとともに、最適な治療の選択や予後予測の上で有用なバイオマーカーとなりうるか?を明らかにする。この結果で有意な結果が得られたら、胃癌、大腸癌などの他のがん種においても同様の検討を行い、様々ながん種に普遍的にみられる現象なのか、組織特異的な現象かを明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度は免疫染色法の手技の確立に時間を割いたため、実際に検討できた症例数は予定よりやや少なく、17万円程度が未使用になったが、2021年度に染色件数を増やした分で使用予定である。
|