研究実績の概要 |
2006年1月1日から2020年8月31日までに当院消化器一般移植外科で行われた糖尿病合併乳癌患者の手術症例177症例のうち、メトホルミン内服症例は49例であった。メトホルミン内服症例は非内服症例と比較して術後全生存率(OS)に有意差は認めなかったが、術後無病生存率(DFS)は良好である傾向を認めた。また、PSTを施行した症例の治療効果をメトホルミン内服群と非内服群で比較すると治療効果Grade3であった症例は、メトホルミン内服群は9例中5例(55.6%)、非内服群は31例中5例(16.1%)であり、メトホルミン内服群は非内服群と比較して、PSTの治療効果が高い傾向を認めた(p=0.05)。 摘出検体を用いた多重免疫組織化学染色(Multiplex IHC)法により、MUC1, MUC2, MUC5AC, MUC6の免疫染色を施行したが、その染色パターンと年齢、組織型、リンパ節転移の有無、癌細胞のKi-67、Stage、Subtype、エストロゲン受容体の発現の有無, HER2発現、術前薬物療法施行の有無などの臨床病理学的因子、およびメトホルミンの服用歴との間には有意な関連性は認めなかった。 一方、がん微小環境の浸潤免疫細胞を評価したところ、メトホルミン内服群は非内服群と比較して乳癌組織に浸潤したCD68(+)マクロファージの数は有意に少なく、CD163(+)M2マクロファージの割合はさらに低値であった。また、CD3(+)T細胞の密度には有意差はなかったが、CD8陽性Tリンパ球の割合はメトホルミン服用群で有意に高い結果が得られた。ヒト乳癌患者においては、メトホルミンの内服により免疫学的微小環境が抗腫瘍的に変化しており、それが患者予後の改善に関連している可能性があることが示唆された。
|