本研究は、細胞内小胞輸送を制御するCytohesin-2-Arf6経路による代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)を介した慢性疼痛の分子制御機構の解明を目的としたものである。 最初に野生型マウスの脊髄腰膨大部におけるCytohesin-2や関連タンパクの局在解析を行い、脊髄後角Ⅰ/Ⅱでの局在を明らかにした。野生型マウスとCytohesin-2遺伝子欠損マウスを用いた疼痛モデルの感受性解析では、Cytohesin-2遺伝子欠損マウスで感受性が減弱していた。またArf6活性は、疼痛誘発後12時間で最も高くなっていた。次にCytohesin選択的阻害剤(SecinH3)を髄腔内投与した野生型マウスの疼痛モデルでの疼痛閾値は、SecinH3投与群で閾値が有意に高く、Arf6活性はSecinH3投与群では増大しなかった。さらに野生型マウスとCytohesin-2遺伝子欠損マウスにグループImGluRアゴニスト(DHPG)の髄腔内投与した実験では、Cytohesin-2遺伝子欠損マウスでは疼痛閾値が大きく低下しなかった。またCytohesin-2遺伝子欠損マウスの方が、DHPG投与時のmGluRの下流タンパクERKのリン酸化割合が有意に少なかった。最後に野生型マウスとCytohesin-2遺伝子欠損マウスのmGluR5と下流タンパクGαqの局在解析では、mGluRについてCytohesin-2遺伝子欠損マウスの方がシナプス後肥厚部のより内部に局在していた。 以上の結果から、Cytohesin-2-Arf6経路が慢性疼痛制御機構に関与する可能性が示唆された。さらにDHPGの実験やmGluR5の局在解析から、Cytohesin-2-Arf6経路がmGluRやERKのリン酸化に影響し疼痛感受性を調節している可能性が高いと考えられる。今回の研究が、今後の疼痛治療開発の一助となることを期待する。
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