研究課題/領域番号 |
20K22964
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
野口 隼矢 日本医科大学, 医学部, 助教 (30879698)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | TEM8 / NASH / 慢性肝炎 / マウス |
研究実績の概要 |
肝前駆細胞は肝細胞および胆管細胞へと二相性分化能を維持し、肝臓組織構造の再生機序において非常に重要である。近年、肝前駆細胞の増殖・分化には様々な増殖因子の関与が報告されているが、肝細胞および胆管細胞への分化を誘導する本質的な因子の解明には至っていない。本研究では、肝再生調節機構におけるTumor endothelial marker 8(TEM8)の役割とシグナル経路を解明することにより、慢性肝疾患に対する新規治療開発のための研究基盤構築を目指すことを目的とした。 2020年度の研究成果として、C57BL/6J正常マウスの肝臓におけるTEM8の免疫組織学的解析を実施した。当初、先行研究において肝三つ組み周囲の一部の肝細胞においてTEM8は発現していると想定していたが、免疫組織化学染色条件の適正化を再度検討した結果、TEM8は小葉間胆管および細胆管、毛細胆管の内腔面において局在していることが明らかとなった。また、TEM8は胆管細胞で構成された小葉間胆管および細胆管の管腔内面においてCK19と共発現を示し、さらにはCK19+胆管細胞と隣接する肝細胞の一部間隙においても発現が認められた。これらの結果から、TEM8は肝臓において胆管を形成する因子である可能性が示唆されただけでなく、胆管細胞および肝細胞で部分的に構成されているCanal of Hering(肝前駆細胞ニッチ)においても発現していることが考えられた。現在、コリン欠乏食を用いた慢性肝障害モデルマウス(NASHモデルマウス)の作製に着手しており、慢性肝炎におけるTEM8の発現・局在の変化に関する検索を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題では、肝再生機序において非常に重要である肝細胞および胆管細胞への二相性分化能に対するTEM8の役割解明を目指している。そのためには、慢性的な障害を受けることで生じる肝臓の組織学的変化におけるTEM8の発現および機能解析が必要である。そこで、2020年度研究計画では、組織サンプルを用いたTEM8の発現解析およびTEM8+肝細胞の初代分離培養による機能解析を計画していた。 本年度の研究成果はやや遅れており、その要因としては新型コロナ感染症に伴う非常事態宣言による全般的な研究開始の遅れが影響していることに加え、免疫組織化学解析の結果が当初想定されていたTEM8の発現・局在とは異なる結果が得られたことから、条件の適正化の再検討に時間を要したことが考えられる。この再検討により得られた研究成果から、C57BL/6J正常マウスの肝臓におけるTME8発現はこれまで予想していた一部の肝細胞ではなく、肝細胞の毛細胆管内腔面および胆管細胞で構成された細胆管、小葉間胆管の内腔面に局在していることが明らかとなった。また、その発現パターンから肝細胞および胆管細胞への二相性分化能有する肝前駆細胞が存在するとされるCanal of Heringにおいても発現している可能性が示唆され、これはTEM8が肝細胞および胆管細胞で構成される複雑な胆管組織構造を形成する上で一役を担っていると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究結果より、TEM8は胆管内腔面において発現・局在することが明らかとなったことから、肝細胞および胆管細胞で構成される複雑な胆管組織を形成する因子の1つである可能性が考えられた。このため、今後は、慢性肝障害モデルマウスを作製し、その病態変化におけるTEM8の発現解析を実施し、また同時に初代分離培養あるいはマウス肝細胞株を用いたTEM8機能解析を行うことで、「慢性肝障害におけるTEM8シグナリングを介した肝再生機能制御」を実施できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は正常肝組織における発現・局在解析が予定よりも時間を要したことから、当初計画していたモデルマウスの作製およびin vitroでの機能解析が実施できず、その分の助成金を繰り越すこととした。また予定していた学会出張の一部もコロナ渦の影響によりweb開催あるいは中止となったため、その分の旅費を今年度の物品費として使用することとした。
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