臓器移植において、ドナー特異的HLA抗体(Donor Specific HLA Antibody; DSA)の中でも移植後新規に産生されるHLA-class II DR(HLA-DR) に対するde novo DSAは、慢性期の抗体関連型拒絶反応(Antibody Mediated Rejection; AMR)と深く関連する。現在、de novo DSAによる拒絶反応の治療は、レシピエント免疫系 を標的として行われるが、長期生着が向上した明確な報告はない。本研究はグラフト内皮細胞上のドナー抗原(HLA class II)を対象とし、その発現抑制に焦点を当てている。 本研究期間内に、免疫抑制剤のエベロリムス(EVR)と脂質異常症治療薬のフルバスタチン(FLU)が、内皮細胞上のIFNγ誘導性HLA-DRの発現量を減少させることを見出した。その機序は、FLUはHLA-DRのmRNAを抑制する一方で、EVRはどちらのmRNAも抑制しないことから、FLUは転写に作用してHLA-DRの発現量を減少させると示唆された。またEVRは、HLA class IIの翻訳後修飾を担うと言われるタンパク質の一つであるCD63の発現量を減少させたことから、翻訳後修飾に影響するのではないかと考えている。 また、EVR存在下で培養した内皮細胞とT細胞との混合培養では、HLA-class Iの発現量の低下なく、CD8の増殖が低下する傾向が見られ、Direct Alloresponseを減弱する可能性が示唆された。 一方、EVRとFLUはB細胞上のHLA-DRの発現にも影響を与える結果を得ており、それら2剤は抗原提示細胞上のHLA-DRの発現量、さらにはその先の免疫反応にも影響する可能性がある。 今後も、EVRの機序、前述2剤の細胞障害抑制効果、抗原提示細胞への影響等の様々な課題を今後も検討していく予定である。
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