研究課題/領域番号 |
20K22972
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福井 夕輝 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10880198)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 全身性強皮症 / 創傷治癒 / 単球 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
本研究は全身性強皮症の難治性皮膚潰瘍に対する新規治療開発の基盤となる病態理解の構築を目的としており、全身性強皮症の病態を再現し、かつ単球・マクロファージにprimaryな異常のある骨髄由来細胞特異的Fli1欠失マウス(Fli1 McKOマウス)を用いることで全身性強皮症の血管障害と創傷治癒異常における単球・マクロファージの関与につき検討を行った。 まずマウス背部皮膚の一部を切除し創傷治癒の評価を行うことで、Fli1 McKOマウスにおいて肉芽形成期以降を中心とする創傷治癒の遅延がみられることを確認した。次にFITC-conjugated dextranを用いて創部が上皮化した際の瘢痕部位の血管構造を評価したところ、Fli1 McKOマウスでは瘢痕部位の新生血管が減少していた。また創傷治癒の過程で形成された肉芽組織のHE染色において、Fli1 McKOマウスの肉芽組織ではコントロールマウスと比較して不整な血管構造および血管数の減少がみられ、真皮には線維芽細胞様細胞が増殖していた。肉芽組織および瘢痕部位において血管の構造異常が確認されたことから、Fli1 McKOマウスでは創傷部位における血管の新生異常が創傷治癒の遅延に影響している可能性が示唆された。 マクロファージは近年、血管の新生やリモデリングの調節に寄与すると考えられていることから、マウスの腹腔マクロファージを用いて血管の新生に関連する因子におけるmRNA発現量の比較を行った。Fli1 McKOマウスの腹腔マクロファージではVEGFA、MMP9の発現が亢進していた一方、PDGFBの発現は低下していた。VEGFA、MMP9、PDGFBはそれぞれ血管内皮細胞の分化や新生血管の発芽、新生血管への血管周皮細胞の動員および血管の安定化に関与することから、マクロファージの形質変化が全身性強皮症における血管の新生異常に繋がる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究によりFli1 McKOマウスにおいて創傷部位での血管の新生異常を伴う創傷治癒の遅延がみられることを確認し、Fli1 McKOマウスの腹腔マクロファージにおいて血管内皮細胞の分化や新生血管の発芽、新生血管への血管周皮細胞の動員および血管の安定化に関与するVEGFA、MMP9、PDGFBの発現異常を明らかにすることが出来た。全身性強皮症の血管障害や創傷治癒異常にマクロファージの形質変化が関与している可能性があることを確認出来たことから、本年度の実験計画について概ね順調に成果が得られていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
全身性強皮症の創傷治癒における単球・マクロファージの関与についてさらに検討するため、in vitroでFli1 McKOマウスの単球の細胞培養液を一定時間低酸素下に置き、創傷部位に類似した環境を作成する。具体的には単球培地でヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)もしくはマウス皮膚微小血管内皮細胞(MDMEC)を培養し、tube formation assayおよびscratch assayを行うことで創傷部位の単球が血管新生や組織回復に与える影響について検討する。 また、エンドセリン受容体拮抗薬ボセンタンは血管内皮細胞特異的Fli1欠失マウスにおいてエピジェネティックにFli1の発現が低下した細胞についてもprotein stabilityを増すことでFli1蛋白の発現レベルを亢進することが示されており、作用機序の観点から新規薬剤開発の一助となる可能性がある。従ってボセンタン投与下でのFli1 McKOマウス由来単球、マクロファージの形質の変化や、血管形成に与える影響についても検討する。
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