【目的】末梢神経の欠損に対するgold standardは自家神経移植であるが、その成績は十分ではない。自家神経移植の成績を向上させることを目的に、今回脂肪由来幹細胞(ADSCs)や、ADSCsをシート化したADSCシートを自家神経移植部に投与して神経再生に与える効果と機序を評価した。 【方法】 ラットの鼠径部の脂肪組織からADSCsを作製し、アスコルビン酸を添加してADSCシートを作製した。坐骨神経の15mm自家神経移植モデルを作製し、自家神経移植片の周囲にADSCシートを投与した群(S群)、ADSCsをPBSに懸濁して投与した群(A群)と、PBSのみ投与した群(C群)をそれぞれ作製した。それぞれの群に対して①移植後12週における成績の評価、②移植後1週におけるDiI標識した移植細胞の局在の評価、③移植後1、2、4、8、12週における移植神経のトルイジンブルー染色による軸索の脱髄、再生の評価、④移植後1、4、7、14、28日におけるPCRによる神経移植片の遺伝子評価を行った。 【結果】①S群がC群よりも成績が改善していた。②A群では神経周囲にほとんど細胞を認めなかったもののS群では神経周囲に細胞が観察された。③S群はC群と比較して移植後早期の脱髄が抑制されており、12週において有髄神経の数が多くなっていた。④M2マクロファージ(MΦ)マーカーであるArginase1の発現がS群で増加していた。 【考察と結論】本研究の結果ADSCシートはADSCsを懸濁液よりも神経周囲に担持し、自家神経移植における神経再生をより促進することが判明した。その機序として、軸索の伸長を促進するとされているM2MΦが増加していること、また移植神経片の脱髄を抑制したことが考えられた。今回の結果から損傷軸索の脱髄を抑制することで神経再生が促進されるといった新たな神経再生を促進する機序が示唆された。
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