我々は、細胞増殖や薬剤抵抗性、合成致死性など目的とした表現型に寄与した遺伝子発現変化を網羅的に同定できるForward genetic手法を用いたスクリーニングを、ヒト卵巣癌腹膜播種モデルを用いてin vivoで行い、複数の卵巣癌腹膜播種増悪に関与する癌遺伝子候補を同定した。その中より、細胞蛋白の除去・分解に関わるユビキチン/プロテアソームシステムの脱ユビキチン化酵素であるUSP32に着目し、以下の検証を進めた。 USP32の卵巣癌における機能については不明であるが、USP32高発現症例は上皮性漿液性卵巣癌予後不良に関わることが示唆され、免疫染色では、正常卵管上皮よりも卵巣癌部で、さらに腹膜播種部の順で発現レベルが増加していることが示された。USP32抑制・過剰発現させたヒト卵巣癌細胞株を用いたin vitro実験より、USP32の細胞増殖・上皮間葉転換・細胞遊走能・幹細胞形質の獲得への関与が、in vivoゼノグラフトアッセイにてUSP32抑制卵巣癌細胞の腹膜播種形成能が抑制されることが示された。 脱ユビキチン化酵素は、標的基質蛋白を脱ユビキチン化によって安定化させているため、USP32の標的蛋白がこれらの現象を生じさせていると考えたが、これまでに標的蛋白についての報告はなかった。免疫沈降-質量分析解析による網羅的解析より、USP32の基質蛋白候補としてメバロン酸経路の酵素であるFDFT1に着目した。FDFT1は他癌種において幹細胞化に関与していることが報告されているが、ヒト卵巣癌細胞スフィアにおいて、接着培養下の同細胞株よりもUSP32、FDFT1は有意に高発現しており、USP32及びFDFT1抑制によってスフィア形成は抑制された。FDFT1やUSP32阻害によって抑制されるスフィア形成は、メバロン酸経路の下流物質であるスクアレン投与によって回復した。USP32がFDFT1を安定化することで幹細胞形質獲得に寄与していること、USP32とメバロン酸経路が今後上皮性卵巣癌の治療標的となりうることが示された。
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