骨肉腫を代表とする骨軟部肉腫(以下、肉腫)はまれな悪性腫瘍だが、若年者に発症することが多く、特に化学療法不応例の予後は不良である。近年、がん精巣抗原の一つであるNY-ESO-1を標的とした、T細胞受容体(TCR)遺伝子を導入したT細胞(TCR-T細胞)を用いた養子免疫療法が滑膜肉腫で臨床効果をあげている。しかし、肉腫に発現する特異抗原とそれを認識するTCR遺伝子の報告は少なく、他の肉腫に対してのTCR-T細胞療法は確立していない。そこで申請者は、肉腫に対する養子免疫療法の適応を広げるために、新たな肉腫特異抗原とそれに反応するTCR遺伝子の同定が必要と考えた。 本研究の目的は、単細胞解析プラットフォームを用いて肉腫浸潤リンパ球(TIL)のTCRレパトアと遺伝子発現を解析し、肉腫TILの免疫応答を明らかにすることである。 粘液性炎症性線維芽細胞肉腫(MIFS)と未分化多形肉腫(UPS)の切除検体からTILを分離して10x Genomics社のChromium Controllerを用いて単細胞レベルでのcDNAライブラリーを合成し、TCRレパトアと遺伝子発現解析を行なった。MIFSではTCRのクローナリティーが極めて高い2種類のTCRが存在し、CD8陽性TILの40%を占めた。一方、UPSでは上位3つのTCRがTIL全体の35%を占め、いずれもCD8陽性のT細胞集団であった。遺伝子発現解析では、MIFS、UPSどちらもメモリーマーカーの発現が低く、活性化マーカーや疲弊マーカー、サイトカイン遺伝子の発現がやや高い傾向にあり、腫瘍を認識している可能性が示唆された。しかし。メラノーマーなどと比べて、後者の発現様式は弱く、免疫原性が低い可能性を示す結果であった。今後、腫瘍反応性のTCR-T細胞を作成し、認識抗原の同定を試みる。
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