先天性難聴は先天性疾患の中でも最も多いものの一つであり、その発症メカニズムの解明は治療戦略において重要である。申請者らは、先天性難聴の原因遺伝子Xをノックアウトしたマウスの内耳に、「greater epithelial ridge (GER)の胎生期変性」という新しい表現型を発見した。GERは、聴覚の伝導を担う内有毛細胞の生後成熟に不可欠である。内有毛細胞は正常聴覚の獲得に関与していると報告されているが、GERの胎生期の変性が及ぼす聴覚への影響は現在まで明らかにされていない。本研究ではGER胎生期変性の原因を検証した。
初年度はトランスジェニックマウスを用いて、先天性難聴の原因遺伝子Xの機能を失った細胞を蛍光色素GFPで標識して、細胞の挙動を追跡した。また、内耳の発生に関与している遺伝子やタンパク質の発現および分布を調査し、遺伝子Xの機能を有するマウスと失っているマウスでの変化を調べた。 昨年度の研究活動期間は産休育休を所得したため1ヶ月間のみとなった。この間、X遺伝子変異モデルであるトランスジェニックマウスを用いて、GER胎生期変性がGERに隣接する内有毛細胞の発生異常に関与しているかを明らかにする条件検討を行った。 本年度は胎生期のどの段階からGERの変性が生じるかを詳細に観察するとともに、胎生期変性を生じている原因について、細胞マーカーを追跡することで特定を試みた。 これらの研究成果を基盤にして、近い将来、GER胎生期変性を原因とする先天性難聴に対する治療戦略の確立を目指す。
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