研究課題/領域番号 |
20K22989
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター) |
研究代表者 |
櫻庭 康司 独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター), その他部局等, その他 (00747579)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 関節リウマチ / 抗マロンディアルデヒド修飾タンパク抗体 / 破骨細胞 / 滑膜炎 / 解糖系 / 細胞代謝 |
研究実績の概要 |
関節リウマチ(RA)は原因不明の慢性滑膜炎により破壊性の多関節障害を来す疾患である。生物学的製剤による強力な治療で予後は劇的に改善したが、不応例も認め、また治癒症例も限られている。より疾患特異性が高い治療法の開発が望まれるが、それにはより詳細な病態理解・解明は欠かせない。RAには疾患に関連する自己抗体が複数報告されている。近年、これら自己抗体の一部が破骨細胞分化促進や滑膜線維芽細胞活性化を直接誘導することが明らかとされた。本研究は、RA関連自己抗体の1つである抗マロンディアルデヒド修飾タンパク抗体(抗MDA抗体)に注目し、破骨細胞分化や滑膜線維芽細胞へ及ぼす影響とそのメカニズムを解析して、新たなRAの病態を解明しようとするものである。 破骨細胞はマクロファージから分化するが、RANKLとMCSFの2つのサイトカイン刺激により誘導される。抗MDA抗体がこれらサイトカインの下流シグナルを増強して破骨細胞分化を促進するのか、それとも全く別の異なる下流シグナルを経由して分化刺激するのかを調べるために、Phospho kinase arrayを用いてリン酸化転写因子の発現を網羅的に調べた。MCSFの受容体であるc-FmおよびRANKの下流にはPI3キナーゼ/AKT経路やERK経路が知られている。抗MDA抗体で刺激された破骨細胞では、これらの経路に関わるいくつかの転写因子で発現が増加もしくは低下していたものの、検体間で逆の結果を示すなど一定の結果が得られなかった。 ここで、抗MDA抗体を加えた細胞群の培養液を観察していたところ、フェノールレッドがより黄色に変化していることに気づいた。培養液がより酸性に傾いており、乳酸濃度が上昇していることが示唆された。乳酸濃度を計測すると有意に上昇していたため、抗MDA抗体は細胞の解糖系を刺激して破骨細胞へと分化を誘導している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナウイルス蔓延による流通の停滞により、実験機器・機材の用意や試薬・抗体の手配に時間がかかり、研究のセットアップが遅れたため研究の進捗はやや遅れています。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究で、抗MDA抗体は細胞の解糖系を刺激して破骨細胞へ分化誘導していることが示唆された。 今後は、解糖系を含めた細胞代謝と抗MDA抗体による破骨細胞分化との関係について解析していく予定である。 まず、細胞代謝をモニタリングできる機器(SeahorseXE)を用い、抗MDA抗体で刺激された破骨細胞の解糖系およびミトコンドリア活動性を解析する。また、解糖系や酸化的リン酸化の阻害剤を用い、抗MDA抗体による破骨細胞誘導が阻害されるか確認する。さらに全体像を確認するために、RNAシークエンスや質量分析装置を用いたメタボロミクス解析を行なっていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年4月に留学より帰国したばかりだったためスタートアップに時間がかかり、研究開始するのが遅れてしまった。また、コロナウイルス蔓延で流通が滞った時期があり、研究の進捗に遅れが生じてしまった。余った助成金は次年度へ繰り越し、必要な物品の購入予算とする計画である。
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