研究課題/領域番号 |
20K23004
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
高木 太郎 愛媛大学, 医学部附属病院, 助教 (20601024)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 一過性内耳虚血 / 成長因子 |
研究実績の概要 |
突発性難聴は急激に発症する感音難聴である。その原因は未だ不明であるが、内耳の循環障害説が唱えられている。われわれは以前より、一過性内耳虚血の動物モデルを用いて、虚血性の内耳障害の発生機序や、成長因子の虚血性内耳障害に対する保護効果について研究してきた。一方で、再生医療の分野において成長因子を豊富に含有する多血小板血漿(Platelet Rich Plasma:PRP)を用いた治療が注目されており、すでに臨床の現場でも実用化されている。今回、このPRPの鼓室内局所投与の虚血性内耳障害に対する有効性を、聴力、内有毛細胞の脱落率などの指標を用いて検討し、臨床応用の可能性を探究する。 本研究では、一過性内耳虚血モデル動物を用いて、その虚血性内耳障害に対するPRPの有効性を検討し、突発性難聴の新たな治療法の開発に寄与することを目的とする。我々のグループは、以前より成長因子による内耳保護効果について研究してきた。これまでに、IGF-1 やGDNF などの成長因子、また成長因子を分泌する幹細胞や骨髄単核球細胞の、虚血性内耳障害に対する防御効果を明らかにした。様々な成長因子を豊富に有するPRPは、同様に内耳保護効果をもつことが期待される。PRPは、成長因子の単独投与よりも効果的である可能性があり、さらに幹細胞や骨髄単核球細胞と比べて簡便に採取可能な点からも臨床の現場で実用化しやすく、その有効性が解明されれば新たな治療法として期待できる。PRPの投与方法としては、安定した局所濃度を保つために、ゼラチンハイドロゲルを用いた局所への徐放投与が有効であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PRPの研究が進む中、現在では次世代のPRPとしてCGF(concentrated growth factor)が注目されている。CGFは、PRPと比較してより簡便に分離抽出可能であり、また血小板凝集惹起物質やトロンビン・塩化カルシウムなど、PRP精製の過程で必要となる物質を用いることなく、完全自己血での精製が可能である。また、CGFはその形状も特殊であり、遠心分離によって強固なゲル状の物質となって抽出される。PRPは液状であったため、徐放化させるためには人工材料が必要である。一方で、CGFはそのものがゲル状であり徐放剤としての働きも有するため、成長因子と徐放剤の両者の役割を担うことができる。現在、われわれは当初の計画であったRPR+徐放剤(ゼラチンハイドゲル)投与からCGF投与へ変更し、研究をすすめている。 問題点として、CGF作製には6~9ccの血液採取が必要であり、スナネズミ一個体から得られる血液では十分量の採取ができない。血液の採取は凝固を避けるために迅速に行う必要があり、複数個体から同時に採取するのに難儀している。また、以前から当科で使用していたスナネズミが、現在入手困難となっている(以前から購入していた業者がスナネズミの取扱を終了したため)。後交通動脈の欠損しているモデルが必要であるが、現在有している個体を確認したところ、7割近くのスナネズミで後交通動脈の開存が確認された。そのため、以前から使用していた種を保存していた宮崎大学に依頼し、交配を始め、後交通動脈が欠損しているスナネズミのモデル作成をスタートしている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、当研究室では、CGFを用いた鼓膜再生治療や嗅覚再生治療の研究も並行して進めている。これらの研究には、スナネズミではなくモルモットやラットを使用しており、個体も大きいため十分量の血液が採取可能であり、CGFの作製には成功している。 今後、スナネズミでのCGF作製が困難な場合や、研究に適正なスナネズミの供給が安定しない可能性も想定される。そのような場合、モルモットやラットを用いた他の難聴モデル(騒音性難聴モデルなど)に対するCGFの鼓室内投与の効果へ計画を変更していくことも検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
RPRおよびCGFを作製するための専用の遠心分離機(約40万円)を購入予定であったが、他からの研究費で購入可能であったため、昨年度は予定の使用額に達さなかった。
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