大規模な顎骨欠損を回復させる骨再生技術の開発は、歯科補綴学の発展にとって重要な課題である。しかし、既存の骨芽細胞に焦点をあてた膜性骨化による再生アプローチでは、広範な骨損傷・骨欠損の場合、その再生量には限界がある。そこで近年、移植細胞の軟骨内骨化を利用した骨再生技術が注目されている。軟骨内骨化では軟骨基質への血管新生誘導が重要であるため、血管新生作用を強化した軟骨細胞を移植することで、大規模骨欠損再生を達成するアプローチを着想した。その方策として、血管新生に関与する血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現を人工多能性幹細胞(iPS細胞)で制御する方法を考案した。本研究の目的は、VEGF遺伝子制御性iPS細胞由来軟骨細胞移植による軟骨内骨化を介した、新たな顎骨再生技術の開発の基盤を確立することである。 初年度では、マウス歯肉線維芽細胞由来iPS細胞を用いて既存の軟骨細胞分化誘導プロトコールの改善を試みた。まず、軟骨細胞分化に関連の報告があるBMP2(bone morphogenetic protein 2)に焦点を当て、ヒトリコンビナントBMP-2をiPS細胞の軟骨分化誘導培地に添加し、軟骨細胞分化について評価を行った。細胞構造学的な観察にて、BMP-2添加群においてもあきらかな軟骨分化誘導の促進は認められなかった。続いて、同様に軟骨分化に関連の報告がある低酸素状態を模倣するためDesferrioxamine(DFX)を軟骨細胞分化誘導培地に添加し、軟骨細胞分化について評価を行った。細胞構造学的な観察にて、顕著な軟骨分化誘導の促進は認められなかった。 2年目では、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を3次元スキャフォールド内で血管に誘導し、試験管内でVEGFの発現の評価を行なった結果、HUVECはスキャフォールド内で血管新生に関わる因子を多く発現することが明らかになった。
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