酵素における予備実験において、再現性及び精度の向上を目的に、酵素条件を変えて確認した。すなわち、上顎第三大臼歯2本(22歳、男/女)の象牙質混合粉末10mgから抽出したアミノ酸試料に、ラセミ化率の有意な変化が認められた条件下pH7.8・37℃において(p<0.01)、AST(0.1U)量を1~2倍量、反応時間を5~30分、基質であるα-ケトグルタル酸の有無について、再度ラセミ化率を調べたところ、様々に異なったラセミ化率を確認できた。これらのラセミ化率を同歯種13本(17-74歳)で作成した検量線に代入すると10~130代と幅広い年齢に相当することが再確認された。本実験結果から、酵素を用いることで、短時間で安全にラセミ化率の上昇および減少させることが可能であることが示唆された。 生活歯と失活歯におけるラセミ化率の違いについて詳細を次に示す。試料として、上顎第一小臼歯、下顎第二小臼歯及び上顎第二大臼歯の生活歯計36本(16-85歳)並びに失活歯計18本(23-80歳)を用い、下顎第二小臼歯及び上顎第二大臼歯では生活歯、失活歯及び混合歯におけるそれぞれの検量線の比較、また上顎第一小臼歯では生活歯で作成した検量線から得られる失活歯のラセミ化率からの年齢誤差を検討した。その結果、下顎第二小臼歯及び上顎第二大臼歯において、ラセミ化率はいずれも失活歯が生活歯より高く、検量線の相関係数は、いずれも失活歯<混合歯<生活歯であり、失活歯が最も低かった(r=0.896082及びr=0.74991、p>0.01)。また、上顎第一小臼歯において、生活歯の検量線を用いて年齢の異なる失活歯5本のラセミ化率を算出したところ、いずれも+10歳以上の誤差であった。ラセミ化率上昇の原因として、失活前後の各種要因による象牙質構造の変化の関与が推測されるが、未だその詳細は不明であり、今後さらに検討して行く予定である。
|