研究課題/領域番号 |
20K23024
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮川 和晃 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (50635381)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 口腔がん / 破骨細胞 / 癌ー間質相互作用 |
研究実績の概要 |
歯肉に発生する口腔扁平上皮癌は歯肉癌とよばれ、腫瘍組織内に骨吸収に関わる破骨細胞を誘導させて顎骨を破壊させながら深部へと進展する。この骨破壊には積極的に骨破壊する浸潤型と骨破壊が緩慢な圧排型に分類され、治療方針を決めるうえで重要な病理学的特徴である。浸潤型歯肉癌は予後不良であり、十分な安全域を設定しても再発や転移が発生しやすいと言われている。しかしながら、この骨破壊の違いがどうして発生するのかという科学的根拠はいまだ不明である。歯肉癌の骨吸収型は癌細胞の特性が破骨細胞の活性化に違いによってもたらされると考え、本研究は、2種類(浸潤型・圧迫型)の歯肉癌マウスモデルを作成・比較することで明らかにしてゆく。 歯肉癌マウスモデルで浸潤型(A株)・圧迫型(B株)の腫瘍形成を示す細胞株についてRNA-seq解析を行ったところ、A株がB株よりも2倍以上発現の高い遺伝子が474個検出された。そのうち、破骨細胞分化に関わる液性因子(X)が8倍高いことを確認し、この結果はそれぞれの腫瘍組織から遺伝子発現に一致していた。また、Xの発現により誘導される細胞集団の組織内分布もXの発現差に一致しており、骨破壊の主体となる破骨細胞の活性化(数・細胞の大きさ・核数)と比例する可能性が考えられた。 今年度で得られた本研究結果は、歯肉癌の骨破壊の多様性には、癌細胞から産生される液性因子Xを中心としたダイナミックな間質細胞変化が寄与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では炎症性骨吸収などで見られるIL-6による破骨細胞誘導の違いが病態形成に関係する可能性を予測していた。しかしながら、IL-6の発現差よりも大きな液性因子Xの違いがRNA-seq解析により明らかとなった。そのため、液性因子Xについての研究が中心となったが、癌ー間質相互作用を明らかにしてゆこうとする点からすると、より独創性の高い新知見が得られる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度(R2)の実験結果は研究計画を遂行する上で”腫瘍細胞と間質組織が液性因子Xによって関連し、破骨細胞誘導を促進させる”という研究目標の大枠を明確化させることができた。したがって、来年度(R3)の実験計画は、腫瘍細胞から産生される液性因子Xが間質細胞の組成や分布をどのように変化をさせ、骨吸収型の出現に寄与するのかを明らかにしようと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
歯学研究科の改装事業による研究室の一時移転と実験スペースの縮小に伴って物品の購入を最小限にとどめ、委託研究であるRNA-seq解析を先に進めたことにより、次年度使用額が発生した。改装工事は2021年5月に終了し、本来の実験スペースへ戻る予定としているため、繰越金は消耗物品の購入と施設使用費に充てる計画とする。
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