研究実績の概要 |
超高齢社会の突入を背景として硬組織再建術が急増しており、骨補填材を用いた外科的治療が積極的に行われている。これに伴い、骨補填材の埋植を原因とした細菌感染症が益々深刻化している。既存の骨補填材は、細菌感染に対して抵抗性を示さないため、細菌が材料に付着すると細菌感染症が惹起されてしまう。このため、骨補填材には、細菌制御能として抗菌性が必要不可欠である。本研究課題では、骨と同組成の炭酸アパタイトに着目し、当該材料の要素技術である溶解析出法を応用することで、炭酸アパタイトへの抗菌性付与が可能であると考えた。当該年度では、材料作製と抗菌性と硬組織適合性とを両立する至適濃度(Window)の探索を目的として研究を計画しており、概ね計画書通りに研究を実施した。研究実績として、炭酸カルシウムを前駆体として炭酸アパタイトを調整し、当該材料と硝酸銀との溶解析出反応によって表面にリン酸銀を生成した炭酸アパタイトの作製に成功した。当該材料のリン酸銀含有量は、溶解析出反応条件(反応時間や硝酸銀濃度)によって容易に制御可能であった。またリン酸銀の生成は、炭酸アパタイトの構造に無影響であり、多孔体構造や一軸貫通孔構造等の特異構造を維持することができた。さらに0.01, 0.1, 1, 10, 100 mmol/Lの硝酸銀溶液に室温で1時間浸漬した炭酸アパタイト試料を用いて、JIS規格に準拠した抗菌性評価を実施した結果、当該材料は全濃度条件で抗菌効果を発現することが明らかとなった。また骨芽細胞様細胞を用いた細胞毒性試験の結果、細胞毒性を示すリン酸銀濃度条件と細胞に無影響なリン酸銀濃度条件が明らかとなった。すなわち、windowの導出に成功した。これらの実績は、硬組織再建と細菌感染症防止を同時に達成する革新的な骨補填材の創製に発展し、良好な予後・QOL向上に貢献する可能性が極めて高い。
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