研究課題/領域番号 |
20K23034
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
平山 真弓 熊本大学, 病院, 医員 (40876364)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 口腔がん / RNA修飾 / FTO |
研究実績の概要 |
DNAやヒストンがメチル化などの化学修飾により遺伝子の発現を制御する「エピジェネティクス」の概念に加え、RNAの化学修飾が様々な細胞内プロセスを制御する「エピトランスクリプトミクス」の概念が定着しつつある。RNA修飾は、細胞の増殖や分化において重要な役割を果たしていることが報告されており、さらには様々な疾患のバイオマーカーや新規治療法のターゲットなど、新しいアプローチとなることが期待されている。本研究では、mRNA転写後修飾のひとつであるN 6-メチルアデノシン(m6A) 修飾に着目し、口腔がんにおける新規バイオマーカーとしての役割を見出すことを目的に研究を行った。先行研究において申請者らはm6A修飾を認識しメチル基を除去するFat mass and obesity-associated (FTO)に着目し、口腔がんにおいてFTOが細胞周期制御因子の一つであるサイクリンD1のm6A修飾を除去することでサイクリンD1の発現を調整し、細胞周期の制御を行っていることを見出したことから、FTOが口腔がんの新規バイオマーカーとしての可能性があることが示唆された。 文書による同意を得られた口腔がん患者を対象に、手術時に摘出した腫瘍組織ならびに隣接する健常組織からmRNAを抽出し、質量分析装置を用いてm6A修飾レベルの測定、またリアルタイムPCRを用いてFTOやサイクリンD1のmRNA発現レベルを測定し、腫瘍組織と健常組織との相違を検討した。その結果、m6A修飾は、健常組織と比較して腫瘍組織で修飾レベルが有意に低いことがわかった。また、FTOの発現は、健常組織より腫瘍組織で高く、FTOの発現とサイクリンD1の発現に相関性を認めた。このことから、FTOの発現レベルが口腔がんのバイオマーカーとなり得る可能性が示唆され、さらにはFTOの発現制御をターゲットとした新規治療法の可能性が期待された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らの先行研究から、FTOはG1期の進行に重要な細胞周期制御因子のサイクリンD1 mRNAのm6A修飾を認識し、メチル基の除去を促進することでサイクリンD1の発現を増加させ、G1期の進行に働いている。本研究で得られた、腫瘍組織におけるFTOの発現が健常組織と比較して高いという結果は、申請者らの先行研究と一貫性がある。またFTOの発現とサイクリンD1の発現に相関性を認めたことも、in vitroの系と相違ない機序が展開されていると考えられる。質量分析装置を用いたm6A修飾レベルの測定結果においても、腫瘍組織でm6A修飾レベルが低いことから、FTOによる脱メチル化が亢進していることが示唆される結果となった。したがって、FTOを口腔がんの新規バイオマーカーとして応用することが可能であると考えられる。しかし、がんの分化度や浸潤度、転移などの臨床病態との関連性が不十分であるため、症例数を増やし更なる検討が必要であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今回の結果から、口腔がんの新規バイオマーカーとして臨床応用できる可能性が示唆されたが、抗がん剤耐性や増殖転移速度など臨床病態との関連性が見出すために、さらに症例数を増やし検討する必要である。またin vitroの系で、FTOの発現制御と抗がん剤の効果の相関を検討する予定である。申請者らの先行研究により、FTOの発現抑制において細胞増殖が低下することから、FTOをターゲットとした治療法も十分に期待できるため、複数種の癌で抗腫瘍効果を示すことが報告されているFTO阻害剤(FB23-2など)を口腔がん細胞に応用し、増殖変化や細胞周期の変化についても検討を行う予定である。またマウスに口腔がんを移植し、FTO阻害剤を投与させた際の腫瘍の増殖変化や浸潤・転移についても検討を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究はほぼ予定通りに進行しているが、初年度は研究期間が半年間と短かったこともあって残額が生じ、次年度に使用することとした。2021年度には、RNA修飾解析により得られたマーカー分子の意義を多数検体を用いて解析する予定であるため、2021年度には研究費の使用額が大きくなることが見込まれる。FTO発現レベルを測定する試薬やFTO阻害剤、マウスの購入、論文作成や学会参加費等に使用する予定である。
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