研究課題/領域番号 |
20K23041
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
乾 賢 北海道大学, 歯学研究院, 准教授 (40324735)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 味覚 / 脳 / 扁桃体 / 学習 / 記憶 / 化学遺伝学的手法 |
研究実績の概要 |
口腔の重要な機能の一つである摂食行動がどのような脳内メカニズムによって発現するのか,その生理学的メカニズムを知ることが本研究課題の核心をなす学術的問いである.これまでに摂食行動の一つの現象として味覚嫌悪学習の中枢神経機序について調べてきた.本研究課題はその研究を発展させることを目的としている.具体的には,扁桃体中心核といわれる脳部位の役割を調べることである. 研究代表者は,先行研究(Inui et al., 2019)において,実験動物の微細な行動の変化を検出することができる装置を独自に開発した.異動によってその装置を利用できない状況にあったため,改めて装置を準備することを計画した.また,これまでの研究では,脳内への薬物注入による行動の変化を調べてきたが,手法的な限界があった.具体的には,薬物の拡散範囲が分からず,どの範囲の神経活動が操作されたかが分からないという問題があった.そこで,操作の影響を受ける神経細胞を特定することができる化学遺伝学的手法を用いることとした. まず,微細行動分析システムの準備として,実験装置を作製し,マウス(C57BL6系統)が味覚嫌悪学習を獲得すると,どのような行動の変化を示すかを調べた.総リック数の減少,単一リック持続時間の減少,バーストリック(高頻度リック)の出現回数と持続時間の減少がみられることがわかった.また,飲み口へ接近してリックする頻度が減少し,反対に接近するもののリックしない行動の持続時間が長くなることが分かった. 一方の実験として,化学遺伝学的手法による神経活動の操作のためにウィルスベクターの選定を行った.アデノ随伴ウィルスベクターのセロタイプや注入量などについて,至適条件を見出した. これまでのところ,扁桃体中心核へのウィルス注入の成功例が少なく,神経活動の操作の影響について具体的に述べる段階にはない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験装置の開発を半年で終了させる予定であったが,想定より長くなり,約10ヶ月を要した.これは,従来はラットを用いていたが,化学遺伝学的手法の導入のしやすさやコストの観点などから,実験対象をマウスへと変更したことによるものである.マウスを用いた実験の経験はあったものの,ラットとは異なる行動の傾向を示すがゆえに,幾度か装置の設計を見直す必要があった.現状では装置は完成したため,既に計画していた扁桃体中心核の神経活動操作に取り組んでいる.当初は装置を1台作製する予定であったが,2台作製することができたため,研究の遅れは十分に取り返すことができると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り推進する予定である.報告書作成時点で,扁桃体中心核ニューロンにヒト改変アセチルコリン受容体M4を発現させるためのアデノ随伴ウィルスベクターを注入した動物に対して味覚嫌悪学習を獲得させた段階にある.今後,クロザピンN-オキシド(CNO)あるいは生理食塩水を投与して,ニューロン活動の抑制が味覚嫌悪学習の想起にどのように影響するかを調べることにしている.その後,別の個体で,ヒト改変アセチルコリン受容体M3を発現させ,ニューロン活動の亢進による影響を調べる予定である. 当初の計画では,全ての実験動物にウィルスベクターを注入し,行動実験時に半数の個体にCNOを,残りの半数には対照群として,生理食塩水を投与する予定であった.この手続きでは,半数の個体のみでしか神経活動操作の影響を調べることができなかった.時間やコスト面などで無駄が多いことから,計画していた条件刺激(サッカリン溶液)以外の味覚刺激を用いた実験も続行して行う.このフェーズでは最初のフェーズでCNOを投与した個体には生理食塩水を,残りの個体には反対の処置を施す.これによって全ての個体の神経活動を操作し,その影響を調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に開催された学会(第126回日本解剖学会総会・全国学術集会 / 第98回日本生理学会大会 合同大会)への参加費として予算を残していたが,クレジットカードによる支払い手続きが年度内に完了しなかったため,そのための費用が次年度使用額として残った.
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