口腔における感覚受容から摂食行動へと至る生理学的メカニムズを明らかにするために,味覚嫌悪学習の中枢神経機序を解明することを目指した.化学遺伝学的手法を用いて,扁桃体中心核の神経活動を促進あるいは抑制し,その時の動物の行動の変化を調べることを目的とした. 初年度は,マウス用の微細行動分析システムを作製し,味覚嫌悪学習の獲得によって摂取量の減少,バーストリック(高頻度リック)の出現回数と持続時間の減少がみられることを明らかにした.また,飲み口へ接近するもののリックしない行動(Entry-Stop行動)の持続時間が長くなることが分かった.これらの実験に並行して,ウィルスベクターの選定を行った. 最終年度では選定したアデノ随伴性ウィルスベクター(AAV8-hSyn-hM3Dq-mCherry)を野生型マウス(C57/BL6)の扁桃体中心核ニューロンに注入した.この動物に飲水訓練を行わせた後,条件刺激(0.2% サッカリン-Na溶液)と無条件刺激(0.3 M 塩化リチウム)の対呈示による条件づけを行った.テストにおいて,実験群には人工リガンドであるデスクロロクロザピン(0.05 mg/kg)を投与し,30分後あるいは90分後に条件刺激を15分間呈示した.対照群には溶媒(1% DMSO含有生理食塩水)を投与した.実験群は対照群に比べて摂取量の増加,バーストサイズの増大,Entry-Stop行動の増大を示した.バーストサイズは嗜好性の指標であるため,実験群では条件刺激に対する嫌悪が減弱したと考えられる.Entry-Stop行動は接近ー回避コンフリクト状態を示しており,実験群における増大は接近傾向の上昇あるいは回避傾向の低下を示したと考えられる.これらのことから,扁桃体中心核ニューロンは味覚嫌悪学習の想起において,条件刺激に対する嫌悪と恐怖に関与していることが示唆された.
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