本年度は、低酸素環境(1%酸素濃度)で培養したがん細胞における大気下における酸産生の発生源について、代謝マップ上のどの経路から生じているのか探求する為の追加実験を行い、様々なデータを複合的に統計解析してえられたものについて論文として公表した。 具体的な研究成果として、がん細胞、正常細胞共に、酸素濃度に関わらずほぼ同様の増殖は可能だが、糖代謝の様相は大きく異なった。がん細胞の糖代謝は急激な低酸素化の影響を受け難いと考えられた。また、低酸素下の培養がん細胞で観察された酸素濃度上昇による糖代謝の活性化とそれに伴う乳酸以外の酸産生亢進は、TCAサイクルを経て電子伝達系に至る酸化的リン酸化の活性化によるエネルギー供給の急増を示唆し、合わせて観察されたROS産生増加は、細胞傷害やシグナル伝達を介する表現型の変化を起こす可能性が考えられた。 本研究において、細胞の代謝活性を低酸素環境においてリアルタイムにモニタリングすることで、がん周囲環境中の酸素濃度の変動が、がん細胞の代謝に影響を及ぼすこと、さらには単純な酸素濃度の違いだけはなく、高酸素から低酸素、低酸素から高酸素濃度条件といった濃度変動により、より多彩な代謝反応の変化が起きることが明らかとなった。本研究結果は、がん細胞の代謝は、複雑にその様相が変化していくがん周囲の微小環境を再現しながら探っていく必要性が高いこと、その際、単純に環境を変えるだけではなく、その変動という視点を加味することが必要であることを示唆し、これからの細胞代謝研究に新たな視点を与えるものとなった。
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