研究実績の概要 |
口腔がんに対する低線量率小線源治療は有用であるが、治療に用いるγ線源に抵抗性を示すがんの存在や術者の被曝、術後の患者隔離が問題となっている。これらの問題点を解決することが期待できるα線を利用した治療法が、近年イスラエルで開発された。Ra-224を線源として用いると、崩壊核種が組織内で数mm拡散しながらα線を照射することができるため、従来の局所腫瘍内照射の利点とα線の破壊力を有する画期的な治療法といえる。一方で、新しい治療法であるが故に細胞動態をはじめ放射線生物学的知見はほとんど得られていない。また、これまで放射線治療と併用することで増感作用を示す様々な薬剤が開発されてきたが、未だ臨床応用に至っていない。 本研究では、α線源による口腔がんの細胞周期動態、特にG2アレスト動態を明らかにするとともに、G2アレスト阻害剤の併用により増感効果が得られるかを検討し、新たな放射線増感戦略の実現を目指すことを目的とした。 細胞周期可視化システムであるFucciを導入したHeLa細胞、口腔がん細胞株(ヒト口腔扁平上皮癌細胞株SAS、HSC3、HSC4、マウス扁平上皮癌細胞SCCVII)を用い、蛍光顕微鏡で、α線源近傍での著明なG2アレストを経時的に捉えることができた。また、G2アレスト阻害剤であるWEE1阻害剤を併用したところ、G2アレストは解除され、細胞死が増加した。マウスモデルでも線源近傍のG2アレスト動態を可視化することに成功した。in vitro, in vivoいずれにおいてもDNA損傷マーカーであるγH2AXの発現が、線源からの距離依存的に減少し、線源近傍では致死的で修復不能なpan-nuclear typeが検出された。本研究では、α線源が周囲に及ぼす生物学的影響を初めて明らかにすることができた。今後は、吸収線量の推定を行い、臨床的により良い刺入法の探索をすすめる。
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