本研究では、歯周炎関連細菌Fusobacterium nucleatum (Fn)によるインフラマソーム活性化と腸内細菌叢の変化および大腸癌の増悪化との相関関係を解明し、さらにインフラマソームの活性化を引き起こしている細菌因子を同定することを目的として研究を行ってきた。まず最初に、Fnによる大腸炎増悪化プロトコルの確立を目指した。Fnを7日間マウスC57BL/6の消化管内へと投与したのち、2%硫酸デキストランを7日間飲水にて摂取させ、さらに通常飲水に戻した。大腸上皮細胞の再生やターンオーバーが始まると予想される通常飲水2日目にFn感染およびDSS投与マウスが劇症型の下痢症状を呈したため、サクリファイスしマウス大腸の長さの計測と組織切片の観察を行い、さらにタンパク質をウエスタンブロット、サイトカインアレイおよびELISA法を用いて解析した。その結果、マウス大腸組織においてFnが感染することで、非感染群と比べ、大腸の長さは約60%ほどに萎縮し、炎症像も亢進していることが示唆された。感染群においてインフラマソームの活性化は非感染群に比べて減弱したが、アポトーシスが亢進していることが示された。同様にサイトカインアレイやELISA法を用いてタンパク質の定性、定量分析を行うと、炎症マーカーは減弱していた。以上の結果から、Fnは大腸組織内において大腸炎による上皮細胞の再生段階においてアポトーシスを亢進することで炎症反応の抑制を行ない、結果、大腸炎の病態そのものを亢進している可能性が示された。 今後はこの大腸炎増悪化が大腸癌の病態に影響を及ぼすか、また、Fnの大腸組織内におけるインフラマソーム活性化の生理的意義について解析していく予定である。
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