研究課題/領域番号 |
20K23054
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
井手口 英隆 岡山大学, 医歯薬学域, 助教 (80779421)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | HMGB1 / 歯周炎 / マクロファージ / 炎症性サイトカイン |
研究実績の概要 |
令和3年度の研究では,多くの炎症性疾患の病態において重要な役割を担うマクロファージとHMGB1の関連に着目して,HMGB1が歯周組織に及ぼす免疫学的な影響をin-vivoとin-vitroで検討した。 はじめに,HMGB1がM1 マクロファージの分化に及ぼす影響を検討した。まず,in-vitroでHMGB1が骨髄由来マクロファージをM1タイプに分化させることが明らかとなった。また,in-vivoにおいても,HMGB1を抑制すると腹腔内のマクロファージのM1 マクロファージの割合が減少した。これらの結果から,HMGB1は骨髄由来マクロファージをM1タイプに分化させる重要な因子であることが示された。 次に,歯周炎組織においてHMGB1がM1マクロファージの分化に及ぼす影響を検討した。歯周炎モデルマウスにおいて,HMGB1を抑制すると,歯周炎の発症から3日後で歯周炎組織におけるM1マクロファージの数と割合が有意に減少した。この時,LysMCre/+-Hmgb1f/f群とAnti-HMGB1群の歯周炎組織中では,M1 マクロファージの分化を抑制する割合は同程度であった。また,HMGB1を抑制すると,歯周炎組織で最も血管が多い歯肉結合組織におけるM1 マクロファージの局在は減少した。 最後に,HMGB1が歯周炎組織の炎症反応に及ぼす影響を検討した。歯周炎モデルマウスの歯周炎組織において,HMGB1を抑制すると,Il-6,Cxcl2,Il-17の遺伝子発現が減少した。 令和3年度の研究結果から,歯周炎組織においてHMGB1を抑制すると,マクロファージのM1タイプへの分化が減少した。その結果,歯周炎組織中の炎症性サイトカインの遺伝子発現が減少し,歯槽骨吸収は抑制することが明らかになった。 以上の研究成果は,学術大会で発表し,現在は論文作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の一連の結果から,歯周炎の急性期において,HMGB1はマクロファージをM1タイプに分化させることで,過剰な免疫応答を引き起こす起因分子の1つとなっていることが示唆された。これは,HMGB1の歯周炎の病態における複雑な免疫学的メカニズムを解明する一助となり,本研究は概ね順調に進展していると考える。 しかし,当初の研究計画にあったHMGB1とTh17の関連については十分には検討できていない。本研究の最終的な目的である, HMGB1中和抗体の歯周病への応用を検討するためには,マクロファージ以外の炎症性免疫細胞種におけるHMGB1の影響をより明確に解明する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
前述の通り,今後はHMGB1とTh17の歯周炎組織におけるクロストークについて着目して研究を推進していく。具体的には,HMGB1を抑制した歯周炎モデルマウスにおいて,Th17への分化に必須の炎症性サイトカインであるIl-6,I l-23そしてIl-1の遺伝子発現を調べる。現在までに,HMGB1を抑制した歯周炎モデルマウスではIl-17の遺伝子発現が減少するという結果を得ている。すなわち,それらの炎症性サイトカインのアウトプットとして,Il-17のメインリソースであるTh17の歯周炎組織における局在と分化度を解析していく。
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