研究課題
矯正治療は長期に渡ることが多い。その間多くの患者が痛みや不快感を訴える。しかし、歯の移動に伴う痛みの発症機序は不明な点が多い。これまでに、矯正力によって歯根膜および歯髄において酸化ストレスが生じることや、歯根膜線維芽細胞に対する機械刺激によりATPの放出が増加することを明らかとなってきた。しかし、歯周組織においてどのように機械刺激が受容され、酸化ストレスやATPが生じるかは不明である。侵害受容に関わるとされるTRPチャネルの中で、TRPV4は伸展刺激のセンサーであり、浸透圧刺激や血流の変化によって生じるshear stressなどの機械刺激を感知し、ATP放出に関わることが知られている。本研究では、実験的歯の移動モデルを用いて、行動学的、免疫組織化学的手法およびin vitro実験を行うことで、TRPV4を介した歯の移動に伴う疼痛発症機序を解明することを目的とした。まず、行動学的解析を行うために7週齢雄性Wistarラットの上顎右側第一臼歯と同側切歯間にNi-Tiコイルスプリングを装着し50 gfの矯正力を付与した実験群と矯正力を加えていないsham群を用意した。コイル装着から1日目にTRPV4拮抗薬RN-1734を腹腔内または 歯根膜腔内に投与し、30分後に疼痛関連行動の指標とされているマウスラビング時間を10分間測定した。その結果、歯の移動に伴い増加した疼痛関連行動が、TRPV4拮抗薬の投与により有意に抑制された。上顎骨組織切片を作製して歯根膜におけるTRPV4の発現を蛍光免疫染色で確認したところ、歯根膜線維芽細胞全体と神経線維に陽性像を認めた。In vitroにおいて新規の歯根膜線維芽細胞への圧刺激実験系を開発し、TRPV4によるATP放出について検討している。
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