本研究は、胎児期および出生後早期の低栄養が象牙質蛋白の発現パターン異常として歯に記録されるかの検証を目的としている。ヒトにおける介入研究は困難であるため、まず、動物実験にて低栄養が象牙質形成にもたらす影響を調査し、その後、ヒト組織にて検証を行うこととした。以下の通り、正常マウスと正常ヒト組織の切片を用いた免疫組織化学的解析のパイロット実験を行った。 【動物実験】 歯胚形成期である、胎生13.5日齢から生後32日齢までの正常マウス歯胚におけるTenascin Cの発現を免疫組織化学染色にて観察したところ、発生期の胎生13.5日齢から胎生15.5日齢の歯乳頭、象牙芽細胞層には強く発現が観察され、その後発現が弱くなった。生後10日齢のマウスでは、象牙前質にも発現が観察された。正常マウスの石灰化象牙質ではTenascin Cの明らかな発現を認めなかった。低栄養仔マウスの作成について文献を検索し、飼料や低栄養の時期および期間について検討を行った。 【ヒト組織を用いた解析】 ヒトの歯の採取に先立ち、患児の胎児期および出生後早期の栄養を含めた環境に関するアンケートを作成した。アンケートの内容を含めた研究計画書を作成し、福岡歯科大学における研究倫理委員会の承認を得た。予備実験として、ヒト組織にてTenascin Cの発現の確認を行ったが、マウスに観察されたような象牙基質に染色される像は確認できず、象牙細管に沿った染色が認められた。ヒトの脱落乳歯を採取し、脱灰方法についてパイロット実験を行った。
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