研究課題/領域番号 |
20K23076
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
和唐 薫子 大阪大学, 歯学研究科, 特任助教(常勤) (60876803)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | IgA 腎症 / う蝕原性細菌 / 歯周病原性細菌 / ラット |
研究実績の概要 |
これまでに、う蝕原性細菌であるストレプトコッカス・ミュータンスのうち、コラーゲン結合能を有する菌株が、IgA 腎症の患者から採取した唾液中より高頻度に検出されることを明らかにするとともに、カンピロバクター・レクタスなどの歯周病原性細菌が IgA 腎症の悪化に関与している可能性を示した。そこで本研究では、さらなる口腔細菌と IgA 腎症との関連の追究が重要であると考え、IgA 腎症患者の口腔サンプルより分離した口腔細菌を、ラットの頸静脈より投与することでその発症メカニズムを検討することとした。 まず、聖隷浜松病院腎臓内科を受診した IgA 腎症患者より口腔サンプルを採取し、分子生物学的分析により、コラーゲン結合能を有するミュータンス菌株を分離した。その後、4週齢ラットの頸静脈より①滅菌リン酸緩衝生理食塩水、②本研究で分離したコラーゲン結合能を有するミュータンス菌株をそれぞれ1回投与し、4週齢(投与前)、6週齢、8週齢、10週齢および12週齢における尿および血液を採取して成分を分析した。さらに、屠殺後に摘出した腎臓は組織学的評価として PAS 染色、IgA 抗体および C3 個体を用いた蛍光免疫染色を行い、IgA 腎症の誘発が認められるか検討を行った。その結果、4週齢(投与前)および6週齢において腎炎様所見は認められなかったが、8週齢および10週齢において、尿タンパク/尿クレアチニン比の増加、メサンギウム細胞および基質の増殖、メサンギウム細胞への IgA および C3 の沈着が認められたことから IgA 腎症様腎炎の所見が発現し、その後、生後12週には寛解を認めた。これらのことから、コラーゲン結合能を有するミュータンス菌株をラットの静脈内に投与することにより、一過性に IgA 腎症様腎炎が発症することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
IgA 腎症を誘発するラットモデルは存在しておらず、疾患発症メカニズムの解析にあたっては、まず動物実験系を確立することが必要であった。本研究により、う蝕原性細菌であるコラーゲン結合能を有するミュータンス菌株を用いた静脈内投与による、IgA 腎症誘発ラットモデルを確立することができたといえる。一方で、歯周病原性細菌のカンピロバクター・レクタスに関しては、IgA 腎症患者の口腔サンプルから分子生物学的分析により検出を行うところまで検討を行った。しかし、菌の分離には至っておらず、予定していたう蝕原性細菌および歯周病原性細菌の混合感染による病態発症の相違の検討はできておらず、想定よりもやや遅れている状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
ラットを新たに飼育し、最初の菌株の頸静脈投与から間隔をあけた複数回のコラーゲン結合能を有するミュータンス菌株の投与により、持続的な疾患の発現が認められるか検討を行いたいと考えている。頸静脈投与時は、侵襲を伴うため、間隔の設定に関しては入念に検討を行う予定である。また、今回用いたミュータンス菌株は1つであるが、他の IgA 腎症患者より分離したミュータンス菌株を頸静脈より投与し、同様の発現が認められるかの検討も行う。 さらに現在、IgA 腎症患者の口腔サンプルから、歯周病原性細菌10菌種の検出を開始している。当初はカンピロバクター・レクタスの分離およびラット頸静脈投与を検討していたが、まずは歯周病原性細菌の中でもより一般的なポルフィロモナス・ジンジバリスを用いた頸静脈投与モデルの構築を進めていきたいと考えている。
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