歯牙喪失後の顎堤吸収に伴う重度骨吸収は歯科補綴治療を困難にする要因の一つである。顎堤吸収については数多くの研究が行われているが、原因が未だ解明されていないことから、その発症メカニズムの解明は重要な研究課題の一つである。免疫系の異常が骨代謝へ及ぼす影響が明らかとなりつつあることから、本研究では、炎症惹起の負の制御分子であるLipin2の機能に焦点を当て、顎堤吸収を抑制する新しい技術を開発することを目的とした。本解析によりLipin2の炎症抑制機能が明らかとなれば、Lipin2下流シグナルの薬理学的な操作が可能となることから、顎堤吸収抑制を対象とした新規治療法の開発につながることが期待される。 令和2年度は、ゲノム編集技術によりLipin2をコードするLpin2遺伝子のノックアウトRAWマクロファージ株を作製したのち、DNAマイクロアレイや定量PCR、ウエスタンブロット解析を用いてLpin2ノックアウトに伴う発現変動遺伝子と、Lipin2により調節を受ける細胞内シグナル伝達経路の同定を行った。その結果、Lipin2が、NFκBおよびNFATc1シグナル伝達経路と相互作用することを認めた。さらに、Lpin2ノックアウト細胞株で破骨細胞形成実験を行ったところ、RANKLを介した破骨細胞様多核細胞 (MNC) の形成がLpin2ノックアウトにより促進された。本研究成果により、Lipin2がNFκBおよびNFATc1シグナル伝達の調節を介して炎症誘発性および破骨細胞シグナル伝達を調節するモデルを提示することができた。
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