前年度までの研究成果を踏まえ、本年では生体内での移植操作性や筋組織再生を考慮したマテリアルの開発を目的として研究を行った。まず移植操作性のため光刺激に着目し、光照射により硬化する生体材料の設計を行なった。生分解性と強度を有するため、末端にアクリロイル基を持つ4本鎖PEG(PEG-S-TA)を合成した。以前より使用していた反応性ナノゲル(CHPA)と架橋開始剤(LAP)を混合し、UV照射を100秒間行うことでゲル化を確認した。作製したゲルの圧縮試験を行ったところ、PEG-S-TAゲルは8kPa程度であり生体筋組織と近い機械的特性を有することが明らかになった。緩衝溶液中での分解試験では約84日後に分解された。またインスリンを自発的に取り込み、外部とのタンパク質交換反応で内包するインスリンを徐放することが確認された。次にPEG-S-TAゲルの細胞毒性を評価するため脂肪幹細胞をゲル内に播種させゲルに対する細胞接着と細胞毒性を評価したところ良好な細胞接着性が確認され、明らかな細胞毒性も認めなかった。本年度の最後にはPEG-S-TAゲルをマウスの皮下に移植し、バイオイメージングシステムで生体内での分解挙動を観察した。その結果、28日後には移植時と比較し約70%程度のPEG-S-TAゲルが分解していることがわかった。 研究期間全体を通して頭頸部再生に応用可能な筋組織再生のためのナノゲル生体材料の開発と機能評価を行ってきた。特に以前はマイケル付加反応を利用した架橋機構を利用していたが、より移植時の操作性を向上や架橋時間の短縮を目的とした外部刺激による架橋構造制御を主軸に研究を遂行した。新型コロナウィルスの影響により生体内の実験にやや遅れが生じてしまったものの、最終年度では生体内移植を目指す上で重要である操作性の大幅な向上と生体筋組織と同様の力学的特性を有するゲルの開発に成功した。
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