研究課題/領域番号 |
20K23106
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
堅田 千裕 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (20876677)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 歯髄 / 神経網 / 再生 / 歯髄幹細胞 / 根管治療 / 生体材料 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,血管網および神経網をあわせもつ人工歯髄様組織のin vitro構築,および作製した人工組織の歯髄再生能の検証を目的としている. 令和2年度は歯髄幹細胞集合体に神経網を構築できるかを検討するために,未分化歯髄幹細胞で作製した集合体を神経細胞分化誘導培地で最長20日間培養し,内部構造の変化を経時的に観察した.歯髄幹細胞の神経細胞分化誘導には、Neurobasal培地(Gibco)にB27,EGF(20 ng/mL),FGF(40 ng/mL)を加えた培地を用いた.まず,歯髄幹細胞を神経誘導培地を用いて培養することによる動態変化をマトリゲル上で観察したところ,球状の細胞凝集塊が認められた.通常培養培地では細胞凝集塊は認められず,ニューロスフィアが形成されたと考えられた. 次に,歯髄幹細胞集合体を作製し神経誘導培地で長期培養することによる形態変化を実態顕微鏡にて観察したところ経時的な体積の減少が認められた.分化誘導を施した細胞集合体から薄切切片を作製し,HE染色およびニッスル染色による組織学的検討を行ったところ,神経誘導培地で培養する期間が長くなるにつれてニッスル染色陽性の細胞が増加することが分かった.また,Live/Dead染色の結果から,細胞集合体を構成する細胞は神経誘導培地を用いた長期培養後においても、ほぼ全ての細胞が生存していることが明らかとなった. 以上のことから歯髄幹細胞集合体を神経誘導培地で培養することにより,集合体を構成する歯髄幹細胞が神経細胞に分化したことが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歯髄幹細胞が神経誘導培地で培養可能であり,ニューロスフィアを形成することが明らかとなった.また,歯髄幹細胞集合体を神経誘導培地で培養することで,神経細胞において陽性であるニッスル染色陽性の細胞が観察され,集合体を構成する歯髄幹細胞が神経細胞に分化したことが示唆された.これらの結果は、歯髄幹細胞を用いて作製した細胞集合体を神経誘導培地で培養することで,神経網をもつ歯髄様組織を創製できる可能性を示している.以上のことから,本研究はおおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
血管構造を有した集合体を神経分化誘導することで血管網構造および神経網構造をもつ歯髄様組織をin vitroで構築できるかを組織学的・生理学的検討を通じて明らかにする. 具体的には,以下の研究計画を実施する. 1.細胞集合体における神経網構造形成過程の評価:神経細胞分化誘導した歯髄幹細胞集合体を,神経細胞マーカー(Neurofilament,GFAP)の発現を評価して免疫蛍光染色による組織学的検討を行う.また,神経誘導を確認できる蛍光標識プローブ(NeuroFluor CDr3)を用いて3Dイメージング観察を行う.さらに,集合体を構成する細胞の経時的な遺伝子発現の変化について,神経細胞マーカー(Nestin,β3tubulin)のmRNA発現量をリアルタイムPCRで評価する. 次に、血管網と神経網をあわせもつ細胞集合体を作製するために,先行研究と同様に,EGM-2MV培地にVEGFを添加した血管内皮細胞分化誘導培地で細胞集合体を10日間から20日間培養し,集合体内部に血管網を形成させる.その後,神経細胞分化誘導培地で培養し,それぞれの誘導期間が異なる試料の組織学的検討を通じて,歯髄幹細胞集合体が血管網および神経網を形成する培養日数の組み合わせを明らかにする. 2.歯髄幹細胞集合体内部に形成された神経網の機能評価 人工歯髄様組織の生理学的検討を行うため,最長20日間の神経細胞分化誘導を施した歯髄幹細胞集合体のスライス標本を作製し,ホールセルパッチクランプ法によってナトリウムチャネルによる活動電位,およびカリウムチャネルの開口を確認する.さらに,蛍光プローブを用いたイオンチャネル・カルシウムアッセイキットを用いて,神経分化誘導前後における細胞膜電位やカリウムとカルシウムのイオンチャネル,Gタンパク質共役受容体の活性を測定し,集合体内に形成された神経網の活動を詳細に評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により実験の中断や制限が生じ,また,学会が延期や中止となったため,未使用額が生じた. このため,感染対策を十分に行い,さらなる実験と学会参加および発表を次年度に行うこととし,未使用額はその経費に充てることとしたい.
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