研究課題
本研究は、失語のある人(Person With Aphasia:以下、PWA)が、自身の意思決定やその支援に対してどのような思いを抱き、医療専門職に何を期待しているのかを明らかにすること、およびPWAを支援する専門職が、自身の業務の中でPWAの意思決定をどのように捉え、どのように実践し、どのように他職種と連携しているのか、その実態を明らかにすることを目指している。COVID-19の感染拡大の影響により、2021年度も研究協力機関内でのデータ採取が予定通り実施できない状況が続いたため、2020年度に実施した予備的調査の対象を拡大して実施することとした。すなわち、回復期リハビリテーション病棟を退院し訪問リハビリテーションを利用中のPWA8名を対象に、意思決定支援ツールであるトーキングマット(Talking Mats:以下、TM)日本語版を用いて活動・参加レベルの目標に対するPWA・言語聴覚士・介護支援専門員それぞれの視点を比較した。その結果、TMの共通リストにおける「コミュニケーション」に関するトピックでは一致がみられた一方で、「セルフケア」「家庭生活」「社会生活・市民生活」に関するトピックでは有意差を認め、PWAの視点と支援者の視点は必ずしも一致しないことが明らかとなった。この結果から、支援者には、TM等の意思決定支援ツールを使用してPWA自身の希望や選好を聴取したうえで、コミュニケーション障害が活動や参加に及ぼす影響を十分に考慮しながら合意目標を設定する姿勢が求められることが示唆された。以上の知見をふまえ、次年度は研究協力機関の回復期リハビリテーション病棟に入院しているPWAを対象に、入院中および退院後の生活課題を見据えた意思決定に関するインタビュー調査を実施する予定である。
3: やや遅れている
COVID-19の感染拡大および感染拡大防止のため研究協力機関への立入が困難となったことや、感染予防のための各種対応に伴う研究協力者の業務多忙により、研究対象者のリクルートを研究再開の目途がつくまで一時中断していたことが要因である。
今期に実施した研究協力機関に所属する研究協力者とのオンラインミーティングを通して、予備的調査で得られた知見をふまえた調査項目が固まりつつある。COVID-19への対応状況は研究協力機関ごとに異なるため、研究協力者と密に連携を取りながら柔軟に対応していく予定である。
本研究は多施設共同研究であり、協力病院の入院患者およびスタッフを対象としているが、コロナ禍の影響により、特に協力病院のうち5病院が感染者の受入れを行っていたこと、また緊急事態宣言の解除後も各病院ともに部外者の立ち入りを強く制限していたため、ため、各病院への訪問およびインタビュー調査の実施が困難な状況となった。上記理由により研究の進捗が遅れているため、補助期間の1年間の延長を申請して承認を受けたところである。2022年度助成金は、①インタビュー調査に関連する旅費、②データ収集および分析に伴う謝金や人件費、③成果発表のための学会出席旅費、④論文投稿に関する諸費用、⑤消耗品の補充等、研究推進のために有効活用する計画である。
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発達障害研究
巻: 44 ページ: -