本研究の目的は、生活習慣の是正と温罨法による生体への温熱刺激が動脈硬化性心血管病 (atherosclerotic cardiovascular disease: ASCVD)の予防にもたらす効果を検証することである。2021年度までは、温罨法器具別の温熱効果について血中HSP(heat shock protein)70の変動を中心に検証した。2022年度は、その研究成果を学術論文にて報告するとともに、血中HSP70に影響を与える要因を中心としたReview論文を提出した。また、一連の検証過程で明らかとなった事項も踏まえ研究計画を一部修正し、本学研究倫理委員会の承認を得て、慢性炎症に関連する血中タンパクと血中HSP70濃度、温熱習慣を含めた生活習慣、動脈硬化度との関連についての検討を進めた。 2022年度の結果を含む研究期間全体の結果として、温罨法器具などのマイルドな温熱刺激は小胞体ストレスを上昇させることなく生体内へ温熱効果を活用できる可能性があることが明らかとなった。副交感神経系への温罨法効果も確認され、これは生体において細胞ストレスを生じさせず安全に温罨法が使用できることを示唆するものでもあると考えられる。一方で、HSP70は2型糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症などの基礎病態であるインスリン抵抗性の改善に寄与する。特に肥満やロコモティブシンドロームなどで運動が困難な場合には、温罨法により効果的にHSP70を誘導する方法も期待されており、今後の検証が必要である。また、若年健康者を対象とした場合に、血中HSP70と動脈硬化度、温熱習慣などとの間には有意性が確認されなかった(データ未発表)。しかし、HSP70はアテローム性動脈硬化症やインスリン抵抗性の病態進行と関連があるため、血中濃度モニタリングの活用については今後の検証が重要である。
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