研究実績の概要 |
報告者は、大腸癌細胞株であるPIK3CA isogenic SW48細胞に対しアスピリンと低酸素に暴露した条件で網羅的遺伝子解析(RNA-seq)を行った。エンリッチメント解析を行ったところ、低酸素状態においてアスピリン処理を行った際には、PIK3CA変異細胞においてアスピリン処理を行ったときのみ、アミノ酸代謝が亢進することを確認した。これは我々の既報(Boku, et al. Cancers[Basel]2020;12:1097)に一致する結果であった。さらに、パスウェイ解析を行ったところ、PIK3CA変異の有無によらずアスピリン処理により”Ribonucleoprotein complex biogenesis” 、”MRNA processing” などのRNA合成に関わる遺伝子群の変化を認めた。アスピリンの臨床効果の特徴は、リボソームを標的としたものである可能性が示唆された。報告者はアスピリンの直接結合タンパクとしてリボソームタンパクの1種であるRPS5(Ribosomal Protein S5)が存在することを発見し、分子標的治療薬の抵抗性に影響するPNAS nexus誌に報告した(in press)。 さらに、 SW48細胞に対しアスピリンとHIF阻害剤であるIDF-11774およびBAY87-2243を併用し、Cell counting Kit-8 を用いて細胞増殖抑制効果を確認した。 PIK3CA変異の有無によらず、アスピリン単剤に対しHIF阻害剤を併用することで増殖抑制効果の上乗せを認めた。今後の方針として、RNA-seqの結果をウエスタンブロッティングや阻害剤を用いて確認していくとともに共同研究によるアスピリンのメタボローム解析にも着手する予定である。
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