本研究は、エスノグラフィーの手法を用いて、医療崩壊の危機が迫る新型コロナウイルスパンデミックの最前線で生起する現象とその渦中で治療やケアを行う医療者や患者家族の経験から、実践の成り立ちを記述することを目的としている。 本研究の成果は、今後起こりうる新興感染症のパンデミックの危機に備え、現場に必要な準備性やその際の医療者の負担軽減を検討することに役立つ。また他者が医療者の未曾有の経験を理解することを可能にする。 当該年度は、医療崩壊寸前のパンデミック下で最前線の集中治療室で起こった現象について、かかわる医療従事者それぞれが何を経験し、どのようにして実践を達成したのかが明らかになった。 集中治療とケア実践の性質、および緊急時の学際的協力の構造について多面的な視点が得られた。英語論文を執筆し投稿中である。 並行してパンデミック初期のCOVID-19 ICUで治療とケアを受けた患者の経験について、Husserlのtranscendental phenomenologyを哲学的基盤とし、現象学的アプローチの手法で分析記述した。パンデミック初期のCOVID-19 ICUで重症化し人工呼吸器を装着した患者のICU での不安と葛藤、特に個人用保護具の使用のために医療スタッフとの個別の人同士のやりとりができ疎外感から、なじみの関係性を求める経験について、詳細で情報豊富な記述が得られた。英語論文を執筆し投稿中である。 発表予定であった臨床実践の現象学会が令和4年には演題発表枠がなかったため、令和5年に演題採択され「COVID-19パンデミック初期に立ち上げられたCOVID-19 ICU重症患者の経験」を発表予定である。
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